2008年05月23日(金) 13時32分
「建前は聞きたくない」 ベテラン裁判官が激怒のワケ(産経新聞)
裁判官という人々は検察、弁護側双方の意見を終始冷静に聞いているというイメージがあるが、刑事裁判の傍聴を続けていると、時には法廷で感情をあらわにすることもあるのだなぁ、と感じることがある。
公務執行妨害と傷害の罪に問われた男性被告(37)の初公判を22日、東京地裁で傍聴した。起訴状などによると、被告は平成20年1月21日午前1時ごろ、東京都足立区の交番付近で、警察官の胸を突いて転倒させたうえ、顔面を殴り全治5日間のけがをさせた。罪状認否で被告は起訴事実を認めた。
情状証人として、被告の妻が証言台に立った。
弁護人「(被告が)犯行に及んだきっかけを教えてください」
妻「もともと友人宅で酒を飲んでいて、帰り際に口論になってもみあっているところを警察官に見られた」
弁護人「警察官がけんかをとめようと声をかけた?」
妻「夫婦と分からず、声をかけられた」
口論になった理由を裁判官が追及した。
裁判官「何が原因で口論になったの?」
妻「ご飯を食べる、食べないで」
さらに被告の反省の様子などを裁判官は質問したが、納得のいく答えが得られなかったようで、「本人に聞きます。終わりました」と妻の証人尋問を打ち切った。裁判官に「証言台へ」と促されて、茶色のスーツを着た被告が証言台に立った。
弁護人「夫婦げんかの理由を具体的に教えてください」
被告「飲み終わって、ラーメンを食べに行こうという話になって、嫁が『行かない』と。コンビニに行って、たばこを買って、おにぎり、肉まんを買ったことを怒られて、『なぜ怒るのか』とエスカレートして、昔のことも出てきて、(けんかが)大きくなった」
弁護人「どれくらい飲んでいた?」
被告「いつもと変わらない」
警察官ともみあう最中、警察官の持つあるものを見て、被告はさらに興奮したという。
弁護人「警察官が(被告を)抑えるとき何か持っていた?」
被告「警棒を持っていた」
弁護人「それを見てどうした?」
被告「『来るなら来い』みたいになった」
被告は若いころ興奮して人を殴ることもあったが、結婚後は1度もなかったという。
裁判官「なぜ罰金ではなく、こう(裁判に)なったと思う?」
被告「気持ちだけでいってしまった」
裁判官「公務執行妨害の中でも悪質と判断したからだと思いますよ。もう少し自分で考えた点はないですか」
被告「警察官に私が手を出したことが人として…」
こうした被告の受け答えに裁判官は激怒。「そんな建前を聞きたいわけじゃない」と一喝した。
裁判官「『反省している』とか『人としてよくないこと』とか、そんなこと聞きたいわけではない。あなたの言葉で聞きたい」
被告「…」
裁判官「今日、法廷に来るのに考えなかった? なぜ軽率な行動をしたのかよく考えてくださいよ」
被告「…」
たたみかけるように諭す裁判官の前で、被告は完全に黙り込んでしまった。
検察側は「一方的かつ執拗(しつよう)な暴行を加えた」として、懲役1年6月を求刑した。
被告の量刑を決めるうえで、反省の深さは重要な要素になるが、被告の言葉は裁判官の心に届かなかったようだ。
借り物の言葉で反省を述べても、ベテラン裁判官にはすぐ見破られてしまうと考えた方がいい。
判決は5月29日に言い渡される。
(末崎光喜)
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