自転車事故の増加を受け30年ぶりに改正された「交通の方法に関する教則」が6月1日、施行される。母子らの「3人乗り」は禁止の方向で検討されていたが、母親らが反発、一転容認に向けて動き出した。一方、関西ではおなじみの自転車用傘立ては「危険な場合がある」と記された。業界は安全な3人乗り自転車の開発をしたり、器具に注意書きを付け加えたり、対応を急いでいる。
「ユナイト」が販売する自転車用傘立て「さすべえ」は30年以上のロングセラー商品だ=同社提供 「ランドウォーカー」の3人乗り自転車の試作品。後輪についた二つの補助輪で安定性を高めた出産・育児支援サイト「ベビカム」が2月に実施したアンケートでは、子どもが2人以上いる親323人のうち35%が「3人乗りをしたことがある」と回答した。規制を「困る」「とても困る」と答えた人もほぼ同数。調査をまとめた俵屋昭さん(47)は「車に子どもを乗せている人もガソリン高に頭を悩ませている。3人乗り自転車のニーズは高いだろう」とみる。
道路交通法にもとづく都道府県の公安委員会規則では原則として、保護者らが6歳未満の子どもを1人だけ自転車に同乗させるのは認めているが、3人乗りは禁止している。
警察庁は昨年12月、違反という認識が利用者に薄いとして、教則で改めて禁止を明記しようとした。しかし、「代わりの交通手段がない」「子育ての実情をわかっていない」と保護者から反対され、4月までに記載そのものを見送った。同月、自転車メーカーなどでつくる「自転車協会」(東京都港区)など3団体に3人乗り自転車の開発を要請。解禁に向け、検討委員会を設置した。
各メーカーはこれを受け、開発を始めた。自転車メーカー「ランドウォーカー」(大阪府吹田市)は今夏にも後輪の両側に補助輪のついた4輪タイプを売り出す予定だ。横転しにくい構造で、地面から足を離しても倒れない。価格は6万〜7万円台の予定。同社管理部長の橋本弘好さん(48)は「3人乗りにも対応できるのでは」と期待する。
一方、ハンドル部分に取り付ける傘立ては、改正後の教則で「傘で視野が妨げられたり、歩行者に接触したりするなど、危険な場合がある」とされた。
100万個以上の自転車用傘立てを販売してきた「ユナイト」(愛知県清須市)は今年に入り、商品に「風の強い日や人込みの中で使用するのは危険」と明記するようになった。昨年末、「傘立てが禁止されるのでは」との風評を受け、一時は売り上げが激減。「使用を認めてほしい」と今年3月までに約2700人分の署名を集め、警察庁に提出した。
禁止はされなかったが、荒川和善社長(39)は納得がいかない。「発売後30年、事故を起こしたとの報告は一件もない。安全運転のための発明品なのに悔しい」
自転車事故は増え続けている。警察庁によると、昨年、自転車同士や自転車で歩行者をはねた事故は全国で7015件で、10年前の5・5倍。大阪府警は、道交法違反にあたる運転に罰則なしの黄色の「自転車安全指導カード」を交付しており、07年は約36万件で前年の2倍以上になった。(机美鈴)
◇「交通の方法に関する教則」の主な改正点
●自転車に幼児を乗せるときや、子どもが自転車を運転するときは、ヘルメットを着用させる
●車の運転者から見やすいように目立つ色の衣服で自転車に乗る
●自転車は原則として車道を走る
●自転車に乗りながら携帯電話やヘッドホンを使うのを禁止
●歩道でむやみに自転車のベルを鳴らすことを禁止
●傘を自転車に固定するのは、視野が妨げられたり、歩行者に接触したりするなど危険な場合があると指摘
<交通の方法に関する教則> 警察庁が公表している自動車や自転車、歩行者などの交通マナー集。道路交通法上の禁止事項に加え、注意事項なども盛り込まれている。教則そのものに法的な拘束力はないが、教育現場や自動車教習所の教本などのもとになっている。