地震など災害時に避難の手助けが必要な人のリストを作成している自治体が全国の市町村の2割に満たないことが、金沢大学の岩本健良准教授らの調査でわかった。半数以上がまだ作成に取りかかっておらず、このうち約6割の自治体が未作成の理由として「個人情報の問題」を挙げた。役所内での情報交換にも慎重で、支援を担う民生委員や自主防災組織に情報提供することへの根強い抵抗感もうかがえる。
岩本准教授ら同大学社会学研究室の調査班が、07年9〜10月、全国の市町村と東京23区の計1826自治体に郵送で調査用紙を送付し、1400自治体から回答を得た。
有効回答のうち、手助けが必要な要援護者リストを「作成している」と回答したのは17.8%で、「一部で作成」「作成中」を合わせても45%にとどまった。一方、「作成していないが、今後の作成予定はある」とした回答は49.8%だった。
未作成の自治体に理由(複数回答可)を尋ねると、「地域コミュニティーが要援護者の情報を把握しているので必要性を感じない」としたのは15.8%だったのに対し、「個人情報の目的外利用や第三者への情報提供の問題がクリアできない」とした回答が60.7%あった。
「作成」「一部作成」「作成中」と回答した自治体に、リスト作成時や運用の課題(同)を尋ねても「個人情報の取り扱いが困難」と答えた自治体が最も多く、「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」を合わせると76.9%にのぼった。
各自治体は要援護者の範囲を独自に定めているが、その一部しかリストへ登録できていないところも多い。登録率9割以上という自治体は25.3%あったが、5割未満も17.8%にのぼった。36.1%が登録率を把握していなかった。
一般の住民に対する安否確認の具体的な方策の有無については、「していない」(53.0%)が「している」(47.0%)を上回った。住民登録していない一人暮らしの人の安否確認では、把握する方策がないと回答した自治体が90.4%に達した。
岩本准教授は「登録率が低いままでは地域のコミュニティーに期待しても、見過ごされる人が出るおそれがある」と指摘。登録率アップを急ぐとともに、自主防災組織などにも守秘義務を課したうえで、行政と災害弱者の情報を共有する必要性を訴えている。
調査結果は松山市で24日開かれる予定の関西社会学会で発表される。内閣府によると、全国の市町村を対象に、要援護者リストの作成状況に加え、課題や登録率まで網羅した調査は珍しいという。(木村聡史)
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〈災害時要援護者〉 政府の検討会が05年3月、高齢者、障害者ら災害時に避難するのが困難な人たちの避難支援プランのガイドラインを策定。自治体に対象者のリストや避難先など具体的な計画を作るよう求めた。内閣府はリスト化の際の個人情報の取り扱いについて、個人情報保護法で目的外使用が認められる「明らかに本人の利益になるとき」に該当するとの見解を示している。朝日新聞が46道府県の県庁所在地や政令指定市など73自治体を対象にアンケートし、2月にまとめた結果では、07年度中に作成予定も含めると、6割近い43自治体がリスト化を進めていた。