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2008年05月21日(水) 22時49分

レバノン 大統領選出へ与野党が合意朝日新聞

 【カイロ=田井中雅人】内戦再燃の危機に直面しているレバノン情勢をめぐり、与野党代表を招いて仲介にあたっていたカタールのハマド首相は21日、首都ドーハで会見し、与野党が合意に達したと発表した。昨年11月から不在となっている大統領が近く選出される。だが、シリアやイランが支援するイスラム教シーア派ヒズボラなどの野党勢力が国政の「拒否権」を勝ち取り、与党・シニョーラ政権を支援する米国の中東での影響力衰退があらわになった。

ドーハで21日、レバノン与野党の合意実現で拍手するカタールのハマド首相(前列左)ら=ロイター

  

  

 カタールの衛星テレビ局アルジャジーラによると、合意は(1)与野党が原則合意しているミシェル・スレイマン国軍司令官を新大統領に即時選出(2)ヒズボラを中心とする親シリア派野党に閣僚ポスト30のうち11を配分——などが柱。

 80人以上の死者を出した今月初めの与野党支持者の市街戦で、ヒズボラがレバノンの首都ベイルートの大半を制圧。合意は、焦点の一つだったヒズボラの武装解除に触れていない。05年2月にシリアの関与が疑われる爆弾テロで暗殺されたハリリ元首相の次男サード氏が率いる与党側が、ヒズボラの「力」に屈した形だ。サード氏は「我々は深く傷ついたが、この合意に応じた」と記者団に述べた。レバノンを舞台とした「代理戦争」で、シリア・イランが米国から主導権を奪い返しつつあるとも言える。

 レバノン憲法によると、重要な決定には国会や内閣の定数の3分の2以上の承認が必要と定められている。06年夏のイスラエルとの戦闘で影響力を増したヒズボラなどの野党閣僚は、事実上の拒否権を握れる閣僚ポストの3分の1以上を要求して親米・反シリア派のシニョーラ内閣から離脱。昨年11月のラフード前大統領の任期満了に伴う新大統領選出でも、閣僚ポスト配分などを巡り与野党の対立が解けず、国会議員による選出投票が19回も延期されてきた。

 18の宗教・宗派がある「モザイク国家」レバノンには、大統領を国内キリスト教多数派のマロン派、首相はイスラム教スンニ派、国会議長はシーア派から選ぶ不文律がある。また、75〜90年の内戦を終結させたタイフ合意により、キリスト教徒とイスラム教徒の国会議席配分を同数とするなど、独自の権力分散システムをとる。

 しかし、人口増が続くシーア派の間には、正当な発言権が得られていないとの不満が高まっている。来年春に総選挙を控え、スンニ派与党とシーア派野党のイスラム教徒間や、与野党に分裂したキリスト教徒間の対立の火種は、なおくすぶっている。

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