サケは産卵の瞬間、心臓を止めている——。北海道標津(しべつ)町の標津サーモン科学館で実施された北海道大学大学院生らによる実験で、14匹のシロザケから、こんなデータが得られた。今年9月に米国で開かれるシンポジウムで発表される見通しだ。
産卵行動中のシロザケのペア。口を開けた直後に心停止が始まる=北海道標津町の標津サーモン科学館、牧口祐也さん提供
シロザケの産卵の瞬間の心電図(上がオス、下がメス)。波形がないところが心停止状態を示している
サケの心停止現象については83年に論文が発表されているが、この時は1ペアだけのデータだった。今回はこの論文を裏付け、心停止がシロザケ全体の生理現象であることを証明したとみられている。
同大大学院の環境科学院博士課程の牧口祐也さんと、同科学館学芸員の市村政樹さんらの共同研究。産卵期の昨年11月、科学館に隣接する標津川とつながる魚道水槽で実験した。根室海峡から遡上(そじょう)してきた20匹に麻酔をかけ、心臓付近に電極、背中に心拍を記録する小型記録計を装着。水槽に戻し、動画カメラで撮影して産卵の様子を見守った。
オス5匹、メス9匹のデータがとれ、心電図と動画を分析。シロザケの心拍は通常毎分80〜90回とされるが、メスが産卵し、オスが精子をかける時に、いずれも6〜7秒間、心停止していた。牧口さんは「10拍分は止まっている。心停止は産卵時だけだった」と話している。
83年の論文をまとめた広島大学大学院生物圏科学研究科の植松一眞教授(魚類生理学)は「サケはタイやヒラメなどとは違い、泳ぐための筋肉を使い産卵する。その瞬間は全身の毛細血管が押しつぶされるくらいの状態だ。血圧を下げるために心停止するのではないか」と話している。(神村正史)
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