開催中の第61回カンヌ映画祭は、コーエン兄弟やタランティーノが参加した昨年の60回記念より地味との印象が、当地では専らだ。だが、「ベテランと新人、無名が入り交じる顔ぶれ」(ヘラルド・サン電子版)は、次の10年に向けて「新しさを求め、権威によりかからず強靱(きょうじん)に」という映画祭のメッセージの表れだろう。
開幕作品は、ブラジルの気鋭フェルナンド・メイレレス監督「ブラインドネス」。失明する感染症が広がり、収容所に隔離された人々が、欲望をむき出しに傷つけ合うパニック映画。
木村佳乃と夫婦役で出演した伊勢谷友介の「目が見えない、見えない」という日本語のせりふが、映画祭の開幕を告げた。上映に先立ち、2人はそれぞれ振り袖、タキシードで赤じゅうたんを歩いた。
スティーブン・ソダーバーグ監督「CHE(チェ)」は、革命家チェ・ゲバラの生涯を2部構成の4時間半で映す大作。ゲバラ生誕80年の絶好のタイミングだ。ゲバラの若き日の南米縦断旅行を描いた「モーターサイクル・ダイアリーズ」のウォルター・サレス監督も新作で参加する。
クリント・イーストウッド監督「チェンジリング(原題)」は20年代のロサンゼルスが舞台。子を誘拐されたアンジェリーナ・ジョリー演じる母の悲嘆を映す。自身のルーツのアルメニア人虐殺を描いた「アララトの聖母」が鮮烈だったアトム・エゴヤン監督の新作も。アリ・フォルマン監督は、建国60年のイスラエルから。レバノン戦争の壮絶な実体験を描く話題のアニメ「ワルツ・ウィズ・バシール(原題)」で、初日夜9時からの、この日2回目の報道関係者向け上映は満員に。「マルコヴィッチの穴」の脚本家チャーリー・カウフマンは監督デビュー作「シネクドキ、ニューヨーク(原題)」で新人賞に挑む。
アジアからは06年ベネチア映画祭の金獅子賞を受賞した中国の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督「二十四城記(原題)」などが参加。四川省の成都に実在し、既に閉鎖された工場での人間模様を映した。ダルデンヌ兄弟は3度目のパルムドールを狙う。
「ある視点」部門には、リストラされた会社員の屈折と家族の崩壊を描いた黒沢清監督「トウキョウソナタ」や、日本人俳優が多数出演するミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノの3監督による「TOKYO!」が参加。招待作品は「インディ・ジョーンズ」のシリーズ新作、ウディ・アレン監督の新作など華やかだ。(カンヌ=宮崎陽介)