発生から10日目を迎えた京都府舞鶴市の女子高生殺害事件。遺体で見つかった府立高校1年、小杉美穂さん(15)は6日深夜に自宅を出て、翌日未明まで約7キロの道のりを歩き続けた。深夜、少女は何を感じ、何を見たのか。2人の記者が同時間帯に同じルートを歩き、確かめた。
深夜の海沿いの道には、民家の明かりはなく街灯だけが頼りだ=京都府舞鶴市、上田潤撮影舞鶴市東部。小杉さんの自宅を出たとみられる午後11時半、記者も歩き始めた。国道に出ると車が頻繁に通り過ぎる。約20分で、小杉さん似の女性が防犯カメラに映ったガソリンスタンドに行き着く。カメラに映ったのは6日午後11時55分。小杉さんのペースは遅い。携帯電話を操作しながら歩いたのかもしれない。
「イェイ発見(ハート)」。小杉さんはスタンド近くの工事現場の赤色灯をカメラ付き携帯で撮影し、コメント付きでホームページ(HP)に載せた。辺りは田畑ばかり。「発見」したのは、やはり赤色灯なのか。
西に約1キロ進むと薬局の前に出る。翌7日午前0時50分、この辺りで小杉さんは友人に電話をかけ「散歩している」と話した。記者は25分も早く着いた。店は閉店しているが、駐車場は街灯で明るい。国道沿いで誰かと待ち合わせるとしたら、最適の場所かもしれない。
薬局西の交差点から府道を舞鶴湾沿いに北上。小杉さんは2日夜にも付近の海岸を訪れ、撮影した夜景写真をHPに掲載していた。街灯がない場所も多く、携帯の画面の照明を頼りに歩く。7日未明の舞鶴は快晴だったが、月はほぼ新月。記者が歩いた15日未明より一層暗かっただろう。
薬局から約1〜2キロ付近には、長いフェンスが延びる自衛隊施設がある。ここで初めて、施設の防犯カメラに小杉さん似の女性と連れ立って、自転車を押す男性の姿がとらえられた。少し先には舞鶴湾を一望するデート向きのスポットもあるが、少女が深夜に訪れるには寂しすぎる。
午前2時前、薬局から約3キロの事業所に到着。ここのカメラでは、男性が少し前を歩く姿がとらえられていた。記者は足のふくらはぎに張りを感じる。買ったばかりのサンダルで歩いた小杉さんにはつらかったかもしれない。
広いガラス工場の敷地の脇を進み、現場近くの住宅街を午前2時20分に通過する。7日の同時間帯に複数の住民が男女の声を聞いていた。朝来(あせく)川へ抜ける細い道は分かりにくく、土地勘がなければ迷う。
午前2時半、川沿いの遊歩道に着いた。暗闇が広がる向こう岸に、遺棄現場の雑木林がある。ここで、小杉さんは道の上から河原に突き落とされ、林の中で激しい暴行を受けた末、殺害されたと府警はみている。
自宅から3時間、薬局付近で検問中の警察官を除き、最後まで誰ともすれ違うことはなかった。暗く、寂しく、長い道を少女は何を目指して歩き、どんなトラブルに巻き込まれたのか。薬局から先の道を少女が懸命に歩いたことだけは確かだ。(樋口彩子、上田悠)