2008年05月10日(土) 03時29分
ニコニコとヤフーが今、手を組んだ理由(ITmediaニュース)
ドワンゴとヤフーは5月9日、ドワンゴ子会社・ニワンゴが運営する「ニコニコ動画」とヤフーの各サービスで、包括的に協業すると発表した。ニコニコ動画は国内最大の動画投稿コミュニティーだが、女性や30代以上の層へのリーチや収益力が弱く、日本一のユーザーベースや強力な広告インフラを持つヤフーは、Web2.0型コミュニティーへの取り組みが課題。それぞれの弱点を補いつつ、新しいビジネスモデルを模索していく。
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まずは同日から、動画の直下に商品リンクを張り付けられる「ニコニコ市場」に、「Yahoo!ショッピング」の商品を掲載。今後、「Yahoo!オークション」との連携や、Yahoo!IDでニコニコ動画を利用できる機能などを追加する。
ヤフーは動画投稿サービス「Yahoo!ビデオキャスト」も運営しており、ニコニコ動画は競合に当たる。井上雅博社長は以前、「ヤフーのサイトは何でもありのカオス状態にはしない」と話し、“カオス状態”のニコニコ動画や、その背景にある「2ちゃんねる」文化に否定的な見方も示していた。
その一方でヤフーは2007年ごろからオープン化にかじを切り、集客力の高い外部サイトにAPIや広告・課金プラットフォームを積極的に提供している。ニコニコ動画は、ヤフーが苦手とするWeb2.0型CGM(Consumer Generated Media)コミュニティーで最も成功したケースの1つ。「ショッピング」「オークション」「ウォレット」などとうまく連携させれば、大きな収益が見込める。
対するニコニコ動画は、男性ユーザーが71%、10代・20代ユーザーが75%という「男性中心・若年層中心」のサービスで、女性や30代以上のユーザーの拡大が課題。2000万ものアクティブIDユーザーをかかえ、幅広いユーザー層を持つヤフーの集客力は魅力。ヤフーの課金・広告インフラを活用し、いまだに赤字というニコニコ動画事業の売り上げ拡大を図りたい考えだ。
●ニコニコ市場から「Yahoo!ショッピング」に集客
ニコニコ市場はYahoo!ショッピングに対応することで商品ラインアップを拡充。Yahoo!ショッピング店舗の出店者が自ら、商品説明を動画で投稿したり、販売する商品へのリンクを“ネタ”として動画に掲載し、市場を盛り上げる——といったことも期待する。
ニコニコ市場の月間の取扱高は約3億円。アフィリエイト収入は、ニコニコ動画の全売上高の15%程度を占める。これまで、Amazon.co.jpとドワンゴの携帯電話向けコンテンツのみ対応していた。
発表会に出席したドワンゴの小林宏社長によると、多くのECサイトから「商品を掲載したい」と引く手あまただったというが、Amazon以外には対応していなかった。小林社長は「ユーザーに受け入れられるか分からず、当初からあまり拡大するつもりはなかったが、これといった理由はない」と説明しつつ、小声で「めんどくさかったから……?」と隣に座るニワンゴの杉本誠司社長に話しかけ、杉本社長が苦笑する一幕も。
ヤフーの喜多埜裕明COOによると、Yahoo!ショッピングの取扱高の約25%がアフィリエイト経由。取扱高拡大の有力なチャネルとしてニコニコ市場に期待する。
●ID連携も ヤフオクに「コメント入札」?
同日から、ニコニコ動画の検索インデックスをヤフーに提供する。Yahoo!JAPANの動画検索からニコニコ動画の動画がヒットしやすくなったほか、ログイン後のページに書かれた情報も検索できるようになった。Yahoo!ツールバーからも、ニコニコ動画の動画検索ができるようにした。
動画の検索インデックスの外部サイトへの提供は初。今後、他サイトへの提供も検討していく。
今後は、Yahoo!JAPAN IDとニコニコ動画のIDを連携させ、Yahoo!JAPAN IDでニコニコ動画にログインできるようにするほか、Yahoo!オークション、Yahoo!ブログ、Yahoo!ウォレットなどとの連携などを行っていく計画だ。
Yahoo!オークションのAPIを利用し、ニコニコ動画経由でYahoo!オークションの商品を入札・落札できる機能や、動画で商品を紹介しながらオークションに出品できる新機能を開発する。「コメントで入札できるようにするなど、オークションそのものの新しい楽しみ方、マーケットを生み出したい」(杉本社長)
ニコニコ動画の動画を外部サイトから閲覧できる「ニコニコ外部プレーヤー」も、Yahoo!ブログに提供。動画をワンクリックでYahoo!ブログに張り付けられるようにする。
Yahoo!ウォレットとも連携し、ニコニコ動画の月額利用料をウォレットで決済できるようにする。ヤフー子会社オーバーチュアが提供する検索連動広告も、ニコニコ動画に導入する。
「ただリンクを張ってお互いにトラフィックを流すのではなく、いくつもの取り組みでご一緒する。マネタイズを含め、ネットの世界を盛りあげ、発展させていきたい」(喜多埜COO)
●打診はヤフーから 著作権関連の問題もクリアに
昨年7月、ヤフーが「一緒に何かできないか」と話を持ちかけた。当時、ニコニコユーザーは200万人程度。著作権を侵害した動画が多く投稿されて問題となっていたこともあり「驚いた」と小林社長は打ち明ける。ヤフーも著作権問題は気にしており、その時点でがっちり組むという結論には至らなかった。
「数々の苦労をしてまいりました」——小林社長は著作権に関連する問題で、努力を続けてきたと語る。昨年3月には主要ゲームメーカーに対し、ゲームのプレイ動画が投稿されていることについて説明。「これはけしからんという会社は1社もなかった」
レコード会社や日本音楽著作権協会(JASRAC)とは昨年6月ごろから協議の打診を始め「何回か門前払いを受けたが、9月ぐらいからお話できるようになった」という。「どの団体や権利者にも『やめろ』とは言われなかった。こういったサービスは、もうちょっと前なら訴訟の嵐で沈没していたかもしれないが、時代にマッチしてきたのかもしれない」
ニワンゴはJASRACと契約し、4月1日からJASRACの管理楽曲を合法的に投稿できるようになったほか、テレビ番組の無断投稿は全部削除するとテレビ局に申し入れる——といった努力を続けてきた。
こういった努力がヤフーを安心させ、協業を後押しした。「著作権侵害への対応については、『Yahoo!掲示板』『Yahoo!オークション』などで培ってきたノウハウを提供できるだろう」(喜多埜COO)
ヤフーの動画投稿サービス「Yahoo!ビデオキャスト」とは競合するが、喜多埜COOは「正直、ちょっと出遅れているサービス」と認める。「難しいところだが、ビデオキャストは単体でユーザーを伸ばすより、ヤフーのサービスとくっつけて伸ばしていく。ニコニコには、ヤフーにはできない要素がある」(喜多埜COO)
●ニコニコのインフラは大丈夫? 「心の準備はしているが、特別な準備はしていない」
「Yahoo!経由でアクセスが増えるとバックボーン増強が必要になり、黒字化がまた遠のくのでは」——そんな質問に対して小林社長は「始めてみないと分からないが、大変かな、と思っている。心の準備はしているが、特別な準備はしていない」と冗談めかして語る。
喜多埜COOは「ヤフーもできる限りサポートしていきたい。お互いがうまくもうかり、バックボーンへの投資も楽勝、というふうになれば」と期待を述べた。
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