2008年05月10日(土) 18時29分
白黒つけたのはパンダだけ?胡中国主席が帰国(産経新聞)
中国の胡錦濤国家主席は10日、5日間の訪日日程を終え、帰国した。「暖春の旅」と自ら名付け、日中友好を再三、強調した胡主席だが、毒ギョーザなど日本国民の対中不信の原因となる諸問題に関しては従来の立場を固持。さらに東シナ海ガス田開発問題などの懸案事項も進展はみられなかった。具体的成果は乏しいなか、チベット問題で日本側から苦言を呈され、行き先々で激しい抗議を受けるなど、胡主席にとっては予想以上に厳しい旅だったようだ。(中国総局 矢板明夫)
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■写真で見る■早大で行われたチベット問題への抗議行動
今回の訪日で胡主席は10年前に日本を訪れた江沢民主席(当時)と異なり、歴史問題などで説教めいた言葉を封印し、日本の国民感情に配慮した言動に終始した。来日直後、日中友好に貢献した大平正芳元首相らの遺族と会見し、福田康夫首相と首脳会談に臨む前に「パンダの貸与」を発表するなど、日本の対中感情を軟化させようと「友好ムード」を懸命に演出した。
3月のチベット騒乱以後、胡主席にとって初の外遊となった今回の訪日は、日本との関係を緊密化させることで、国際社会で高まる対中批判を和らげ、孤立しつつある中国外交の突破口を開きたいとの思惑があった。しかし、中国国内で若者を中心に民族主義意識が高まり、指導部内にも対日強硬派がいるなか、胡主席は安易な譲歩はできず、言葉で善意を表すほか、できることは限られていた。
日本側の反応は胡主席にとって厳しいものだった。中国の外交筋は胡主席訪日前、北京五輪開幕式の出席について「皇室が無理でも、首相出席の確約がとれる」と楽観視していたが、7日の共同記者会見で福田首相は「事情が許せば」と明言を避け、今後の国際世論の変化に応じて欠席する可能性さえにおわせた。
毒ギョーザ事件については、食の安全を監督する共同機関をつくることで、一件落着としたかった中国側に対し、福田首相は「断じてうやむやにできない」と強い表現を使って捜査と協力の継続を強調した。チベット問題では、安部晋三前首相から「人権状況について憂慮している」と苦言を呈され、胡主席が返答に窮した場面もあった。
胡主席の訪れる先々に厳重な警戒態勢が敷かれていたが、早稲田大学や唐招提寺などほとんどの訪問先の周辺で「ノー毒ギョーザ」「チベットに自由を」などを叫ぶ抗議集会があった。
胡主席は横浜の中田宏市長に対し、「私への反感の声を聞いたが、日本のすべてだと思わない」と語った。しかし、多くの日本人が今の中国に対し大きな不満を持っていることと、口先だけで「日中友好」の未来が開けないことを、今回の訪問を通じて、胡主席は気づいたに違いない。
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