「関西人だから、納豆、食べられないでしょ?」と茨城県出身の知人に言われた。我が家の朝の食卓には週に1、2度並ぶが、「あのにおいが……」と敬遠する人は少なくない。しかし、知人は「関西の納豆では物足りない。地元から取り寄せている」とまで言う。本場のものは違うのだろうか。水戸市を訪ねた。
JR水戸駅近くに本店を構える1889年(明治22年)創業の「笹沼五郎商店」。社長の笹沼隆史さん(64)は「最近は関西の人も来てくれますよ。30年前に関西を旅した時、『納豆が好き』という地元の人と話が盛り上がったら、実は甘納豆だったことがあったけどね」と笑いながら、ワラの包みをくれた。
スーパーなどではパック入りのものを見かけるが、本来は蒸した大豆をワラに詰めて作った。ワラに付いた納豆菌が豆を発酵させたという。
ワラの包みを開くと表面に白い糸を張った小粒大豆が、独特のにおいとともに姿を現した。一つの塊のようで、まぜようとしてもハシが動かない。根気よく続けていると、次第に糸を引き、粘りが出てきた。しょうゆを少したらし、ご飯にかけて食べた。
ふだん口にしている納豆とは歯応えが違う。においは少しきついが、うま味が勝っているせいか、さほど気にならない。「味が濃くて、おいしい」と言うと、笹沼さんは満足そうにうなずいた。
茨城県工業技術センター・食品バイオ部門長の長谷川裕正さん(54)によると、ワラで包むと豆の水分が飛びやすく、一晩で重量が20%も減るほど豆が締まる。小粒の方が菌が繁殖しやすく、粘りとうま味が増す。こうした点が水戸納豆の特徴という。「関西のスーパーに並ぶ大手メーカーの納豆は、においを出さない菌を使ったり、粘りを抑えるよう発酵工程を工夫したりしているようです」とも教えてくれた。知人が本場のものにこだわる理由がわかった。
続いて訪ねたのは納豆料理専門店「信力」。から揚げ、天ぷら、たたき、山かけ……。店主の佐藤信力さん(72)が「朝だけでなく、夜も食べてほしい」と考案したレシピだ。から揚げは衣にコーンスターチを使って粘りを抑える。口にすると、香ばしさと納豆の甘みが広がる。朝ご飯のおかずとしか思っていなかった納豆に、こんな食べ方もあるのかと、また驚かされた。(中館聡子)
東高西低は変わらず
総務省の家計調査によると、都道府県庁所在地別で見た一世帯あたりの納豆の年間購入額(05〜07年平均)は、福島(6422円)がトップで、水戸(6195円)は2位。以下、前橋、宇都宮、盛岡の順。一方、少ない順では和歌山(1863円)、大阪(2238円)で、高知、徳島、神戸と続き、“東高西低”の傾向は明らかだ。しかし、大阪は20年前に比べ、約3倍に増えている。
水戸納豆は、明治時代に開業した水戸駅前で土産物として売られたのがきっかけで人気となった。笹沼五郎商店(029・225・2121)は通信販売も行っている。信力(029・224・4049)には、コース料理(3150円)もある。