硫化水素による自殺が相次ぐ中、学校現場が対応に苦慮している。ガス発生の材料となる洗浄剤がトイレ清掃用として校内に常備され、硫化水素を発生させる実験を紹介している教科書もあるからだ。「危険性を教えなくてはならないが、逆に興味を持たれても…」と頭を抱えている。
▽用具入れに鍵
二十三日に女子中学生(14)が硫化水素で自殺した高知県香南市。市教育委員会は市内の全小中学校に、トイレ洗浄剤の適切な保管を指示し、家庭にも学校を通じ取り扱いへの注意を促した。
市立野市中は洗浄剤をトイレの鍵のない用具入れに保管している。トイレ掃除は生徒が分担しており、当番の生徒たちが便器の洗浄に洗剤を使っている。指示を受け「勝手に持ち出せないよう今後、用具入れに鍵の取り付けを検討している」と谷村正昭校長。使用時は教員が必ず立ち会うようさらに徹底するという。
中学理科の複数の教科書は「物質の化合」の単元で、試験管の中で混ぜ合わせた鉄粉と硫黄の粉を加熱した後、塩酸を加えて硫化水素を発生させ、においをかいでみるという実験をイラスト付きで紹介している。
「実験をする際の注意事項を確認したい」。東京都内の教科書会社には、これまでに中学校などから数件の問い合わせが寄せられた。
▽どこまで教える
教科書会社はイラスト中に記載している「換気を十分に」「深く吸い込まない」「発生する気体は有毒」などの注意点をあらためて説明しているが、「何十年も前から載せているスタンダードな実験。注意を守れば安全だが、『危ないからやるな』と文部科学省から指導が出るかもしれない」と戸惑う。教科書改訂時に、この実験を載せるかは決めていないという。
香南市立赤岡中は二年生が十一—十二月ごろの授業で、教科書に沿って、この硫化水素発生の実験をする予定だ。
実験に当たって、生徒に危険性をより丁寧に教えるなど指導内容を見直す方針だが、好奇心の強い年代だけに、逆に関心を持たせることになりかねない。
「人体に危険なことを知識として学んでもらう必要がある」と宮地健一校長。「しかし自殺が相次いでいる中で、どこまで教えるべきなのか、どう教えればいいのか分からない。どこの学校現場も頭を痛めているのでは」と話している。
【写真説明】硫化水素を発生させる実験を載せた中学理科の教科書