2008年04月30日(水) 11時58分
「原田マクドナルド」に悪評散々(FACTA)
——労災や残業代不払いのオンパレード。それでも「名経営者」ぶる原田CEOの魂胆。
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過当競争の中で原材料高が直撃し、青息吐息の外食業界。その「苦界」にあって、ひとり利益の急回復を果たしているのが、日本マクドナルドホールディングスだ。2007年度の営業利益は前年から倍増以上の167億円。08年度は200億円の大台を狙う勢いだ。
この外食最大手の巨艦を、会長兼社長兼CEOという「絶対権力者」として一手に束ねるのが、04年に同社へと転じた原田泳幸氏だ。作り置きしない「メイド・フォー・ユー」の全店導入や地域別価格の実施、24時間営業の本格化と、矢継ぎ早に改革策を講じた。
沈没寸前だった同社を見事蘇らせた立役者との触れ込みで、人気経済番組でもその成功譚を惜しみなく披露した。今年に入りすでに2冊の経営論も著した。「名経営者」として我が世の春を謳歌しているかに見える。
だが、その一方で原田氏の経営手法に対して疑問の声も少なくない。その象徴が、「身内」からの猛反発だ。
3月21日、マクドナルドの元店長4人が、肩書だけ管理職として扱われ残業代が支払われなかったのは不当として、不払い残業代など約1700万円の支払いを求めて東京地裁に提訴した。一人は24時間営業のスタートに伴い、退職直前の3カ月の残業時間は148時間、116時間、174時間と、月80時間の過労死認定基準をはるかに超える激務を余儀なくされていた。
■常軌を逸した長時間労働
すでに別の裁判で東京地裁は1月28日、労働実態からマクドナルドの店長は残業代を支払う必要のない「管理監督者」とはいえないとして、過去2年分の不払い残業代など約755万円の支払いを同社に命じた。
3月6日には愛知県の豊田労働基準監督署が、50代の元店長が脳梗塞と大動脈瘤で倒れたのは、月80時間を超える残業など過重な労働が原因だったとして、労災を認定した。また、昨年10月、40代の女性店長が業務中にくも膜下出血で急死したのは過労死の疑いが濃厚だとして、近く遺族が声を上げる見通しだ。
この数カ月間を振り返っただけでも、店長という現場の要である社員の常軌を逸した長時間労働と悲痛な叫び声が、立て続けに表面化している。それは同社の風通しの悪さの裏返しではないか。
原田氏は自著で「どんなことにも真正面から取り組み、どんな質問にもホンネで真剣に答える姿勢に、識者やマスコミからの信頼が厚い」と自讃している。だが、店長らの反発を見る限り、実態は異なっているようだ。06年に労働組合が結成されたのも、現場の声に一切耳を貸そうとしない原田氏の姿勢に社員が危機感を抱いたからだ。
原田氏のキャリアは外資系一色。東海大学工学部を卒業後、エンジニアとして入社したのが、コンピュータ関連のNCRの日本法人。転職した横河ヒューレット・パッカードで営業職に異動してからマーケティング畑に転じ、アップルコンピュータ日本法人ではトップも務めた。
原田氏を知る関係者は「社員の意見を聞くふりをするだけで、最初から結論は決まっている」と苦々しげに語る。一方で、アップル時代も今も、米本社の外人ボスたちからは「主張がブレないタフネゴシエーター」との評価を得ている。米本社の支持をバックに自分の地位を脅かすポジションの人間は次々と粛清。現在の日本マクドナルドの取締役陣は米本社の外国人と弁護士など「原田人脈」で固められている。
そんな原田氏が目下躍起になって進めようとしているのが、店舗のフランチャイズ(FC)化だ。同社では現在ある約3700店舗のおよそ7割が直営で、残り3割はそのほとんどを元社員のFCオーナーが担っている。06年に策定された経営計画では中期的にこの比率を直営3割、FC7割に逆転させる方針が示された。現在のFCオーナーは零細経営が多いが、経営体力のある地方の大資本をオーナーに取り込むことを目論んだ。
ところが本格着手した矢先の昨年11月末にFCオーナー店での調理日時シールの張り替えなど、賞味期限切れ商品の販売が発覚。同社の管理の杜撰さが露呈した。性急なFC比率拡大への批判も出始めた。
それもあってか07年度のFC化は144店にとどまった。しかし、その舌の根も乾かぬうちに、08年度はその3・5倍の直営500店をFC転換するとぶち上げた。この方針を聞いた業界関係者は、「原田社長はそろそろ手仕舞いを考えているのだろう」とその真意を読み解く。
■「焼き畑経営」の限界
直営店だとすべて会社の経費となる人件費や出店コストが、FC化することでそれらをFCオーナーに付け回しすることができる。それどころかオーナーは営業権や固定資産の買い取りを求められ、ロイヤルティーや広告宣伝費も売上高に応じて自動的に上納させられる。一般論として、FCビジネスはオーナーのなり手さえ確保できれば旨味は大きい。しかもゼロスタートではなく、既存の直営店をFC転換させる今回のスキームは、一時的に利益水準を劇的に膨れ上がらせることができるのだ。
原田氏は、その成果を元に高い処遇で他社に転じるのではないかとの憶測まで出ている。
こうした手法には、「焼き畑農業」「場当たり的」といった批判的な声も強い。というのも、こと外食業界において、これまでFC展開を進めてきた企業は今、枕を並べて討ち死にしているからだ。
その筆頭は奇しくも同じくハンバーガーチェーン「モスバーガー」を展開するモスフードサービスだ。同社はここ数年、期中に下方修正を繰り返す常連組だ。利益も低迷著しい。その最大の原因は、FC店舗がほとんどを占める店舗政策の失敗にある。同社が店舗のリニューアルを大々的に打ち出しても、経営体力の細ったオーナーは難色を示し遅々として進まない。こうした体質を一掃しようと零細オーナーを切り捨て、大手オーナーの開拓を模索したがあえなく失敗した。一連の混乱で悪評が高まり、毎期のように出店目標は未達、退店は想定超過。その結果、利益は低迷する負のスパイラルに陥った。
FC展開は、一時は信じられない利益をもたらすが、効果が切れると塗炭の苦しみを味わうケースが多い。このことを、マーケティングが専門の原田氏が知らないはずがない。
それどころか、原田氏が立て続けに繰り出した無理難題ともいえる新戦略が、即座に現場レベルに落とし込まれて業績向上につながったのは、他社がうらやむ直営店網の奮闘あってこそだとは、原田氏も理解しているだろう。
その解体は自らが行った一連の改革の自己否定につながりかねない。それでも、直営店網の解体を目指すのは「所詮マクドナルドと従業員は、原田氏のキャリアの踏み台にすぎないからではないか」(業界関係者)。
原田氏が現場の声に耳を貸さないという点やFC化の弊害について尋ねた本誌の質問に対し、日本マクドナルド・コミュニケーション部は「弊社における事実の認識と相違があり、回答を控えたい」と答えた。
(月刊『FACTA』2008年5月号)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080430-00000000-fac-bus_all