記事登録
2008年04月29日(火) 18時49分

150人巻き込んだ中3不登校少女…硫化水素自殺の“闇”産経新聞

 高知市から車で約1時間、のどかな田園が広がる高知県香南市香我美町の市営住宅で23日夜に突如発生した硫化水素による避難騒ぎ。死亡した中3少女(14)は、玄関ドアに赤い文字で「毒ガス発生中」と書いたメモを張って、浴室で自殺していた。少女に何があったのか。そしてなぜ約90人もの住民が手当を受けるほどの事態になったのか。

■1年秋から不登校

 死亡した少女の小学校時代の女性校長は語る。

 「優くて、よく人の面倒をみる子でした。児童会の役員もしており、活発でリーダーシップが発揮できた。お友達も多かったのにこんなことになるなんて」

 少女の同級生の母親の少女像も、最初はこれと共通したものだった。

 「中学に入っても活発で明るく、なんでも率先してやるいい子だったんです」

 それが中学1年の2学期ごろから変わり始めた。

 「何かのきっかけで学校に行きたくない−と言いだしたようです。2年生のころは保健室登校のような形だったと聞いています。3年生になると、母親から担任も代わり新しい環境になったからがんばって行こうね−などと励まされて、何日か登校したらしいのです」

 事件翌朝、中学校の校長は会見で、自殺の直接的な要因としていじめなどはなかったと強調した。

 しかし不登校になった要因として、1年の2学期にバレーボール部の練習についていけずに休部したことや、担任教諭との相性、3年時には、不登校による出席日数不足や学習面で不安があったことなどを列挙した。

 さらに2、3年生への進級時には、「仲の良い生徒と同じクラスにしてほしい」などという相談があったことも明かした。

 少女は2年生では、約240日の出席日のうち、約3分の2にあたる約160日を欠席。3年生になってからは、始業式の7日と翌8日は出席していたが、以後は欠席していた。

 本当にいじめなどはなかったのか。

 同級生によると、不登校になってからも、会うと少女の表情や態度はごく普通だったという。

 市営住宅の女性(28)もそうした点は同じように感じていたようで「あの子のような、重い引きこもりでもない子を救うことはできなかったのか」と、学校への憤りを隠さない。

 警察は遺書をあったことは認めているが、内容は明らかにしていない。

 自殺の直接的な動機や精神状態はどうだったのか。不登校傾向に陥ったきっかけは何だったのか、どんな要因が重なって立ち直れなかったのか。

 少女の心の闇は深い。

■150人避難

 警察によると、少女は5階建ての市営住宅の3階の一室で母親(38)と2人暮らし。

 母親が仕事に出掛けて1人きりになったとき、市営住宅の浴室にプラスチック製の衣装ケースを持ち込んで、トイレ洗浄剤などを注ぎ込んで、大量の硫化水素を発生させた。

 制服姿で、かたわらにはノートと携帯電話があり、遺書めいた書き込みがあったという。

 消防によると、事件発生直後から少女の住む部屋を中心に「気分が悪い」「のどが痛い」などの症状を訴える人が21人おり救急搬送。68人も自分で病院に駆け込み処置を受けた。

 硫化水素は空気より比重が重いため、高層階で発生した場合速やかに下層へ広まる性質がある。

 消防の検証でも、少女の住む3階の部屋を中心に両隣と、直下の2階、1階の住人が健康被害を訴えていた。

 小学生の子供を持つ女性(28)は「卵が腐ったようなにおいがして、子供と一緒になんだろうねと話していた。食事を終え風呂から上がったときに避難するよう言われ、あわてて飛び出した」。

 他にも「消防車の音がして窓を開けたとたんに、くさったにおいがして、避難してくださいと呼びかけるのが聞こえた」(35歳女性)。「妻が、のどが痛いといって検査入院中。とりあえず子供も心配なので帰ってきたが、どうなるんだろう」(35歳男性)。

 香南市消防本部は事件発生前の今月9日に消防庁の通達を受け、硫化水素自殺対策のマニュアルを15日に作成していた。

 勉強会も2回開催していた。

 このため事件の一報を聞いた時点で、硫化水素自殺と瞬時に判断。近くの体育館を避難所とすることを決定、午後8時過ぎから住民に呼びかけ避難させた。

 避難者150人に対し、治療の優先順位を決めるトリアージも実施。うち21人は治療の必要があるとして、病院に搬送した。

■情報社会の恐ろしさ

 警察では、硫化水素については、少女のメモなどからテレビなどで得た知識ではないかと見ている。

 いずれにしても巻き込まれた住民らは憤るよりも、こうした事件を簡単に起こすことができる世の中に、底知れなぬ恐怖を感じているようだ。

 同市営住宅に住む男性(45)は「インターネットや携帯電話、テレビで、子供がいろんな情報を簡単に手に入れられるのは怖い。規制するのは難しいだろうが」と沈痛な表情。

 そして朝刊で何があったかを確認した住民らは、改めて「子供が簡単に危険な情報を知りうる怖さ」を口にした。

【関連記事】
市営住宅で硫化水素自殺 14歳少女死亡、90人手当て
近所の女性が一時意識不明 高知・香南市の硫化水素事故
またも「ガス発生中」の張り紙 女子大生が硫化水素自殺 大阪
市営住宅で硫化水素自殺か 帰宅した10歳長女が見つける
相次ぐ硫化水素自殺 4月はすでに50件超す

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080429-00000920-san-soci