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2008年04月27日(日) 00時00分

嫁ぐ娘思う「花嫁のれん」 石川・七尾で140枚展示朝日新聞

 嫁ぐ娘に親がのれんを持たせる北陸地方の風習「花嫁のれん」。一時は廃れるかに見えたこの伝統が再び脚光を浴びはじめている。石川県七尾市では、街の活性化にと始めた「花嫁のれん展」が今年5回目を迎え、呉服店にはのれんの注文が入るようになった。加賀友禅で仕立てられた華やかなのれんの波を見学しようと、今年も娘の幸せを願う多くの親らがのれん展を訪れる。(大畠正吾)

松本まつのさんの花嫁のれんは、70年以上たつ今も華やかだ。右は孫の妻の治子さん=石川県七尾市

 花嫁のれんは、嫁入りの際に夫の家の仏間に掲げられ、花嫁が家族の一員となる証しとしてその下をくぐる。加賀藩の商家で始まった風習といい、戦後も石川県を中心に一般家庭で続いていたが、近年は珍しくなったという。

 七尾市の奥能登へつながる主街道「一本杉通り」では、04年から毎年「花嫁のれん展」が開かれている。「通りを活気ある場所にしよう」と活動していた女性たちが、自宅に眠っていたのれんを通りの各店舗に飾ってみたところ、反響があった。松や花々を背景に鶴やクジャクなどをあしらっためでたい図柄が、娘を思う親の愛情を感じさせ、昨年も全国から訪れた8万人を超える見物者を魅了した。

 「持参した着物は疎開した時にみんななくなり、のれんだけが残った」

 松本まつのさん(97)ののれんはボタンの花にオシドリが水面に浮かぶ姿があしらわれた絵柄。1932(昭和7)年、20代で富山県氷見市から呉服店2代目の夫と結婚した際に持たされた。

 その孫・晃一さんと結ばれた治子さん(37)もまた母親にのれんを作ってもらった一人。「裕福でもないのに、母親がぜひ作ってやりたい、とあつらえてくれました。その気持ちを思うと、ここでがんばろうと思いました」と振り返る。治子さんは娘の千雅ちゃん(9)と華寿美ちゃん(5)が結婚する時にも持たせてやりたいと思っている。

 加賀友禅作家の志田弘子さん(55)は、知人に頼まれて年1枚のペースで花嫁のれんを手がける。「出来上がった時にお母さんが見せる涙を見ると、母の思いを娘に橋渡しするのれんづくりは職人冥利(みょうり)に尽きます」

 今年の花嫁のれん展(29日〜5月11日)には、呉服屋や和ろうそく屋、仏壇屋やお茶屋など51軒が参加し、それぞれの店内には縦横2メートルほどののれん計約140枚が飾られる。観覧は無料。問い合わせは情報処しるべ蔵(0767・52・1231)へ。

http://www.asahi.com/kansai/kouiki/OSK200804270076.html