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2008年04月24日(木) 11時41分

なぜ? 映画館前に生ごみをまき散らした被告産経新聞

 映画館の前に生ごみを捨てたとして、廃棄物処理法違反の罪に問われた女性被告(58)の初公判を23日、東京地裁で傍聴した。
 起訴状によると、被告は平成20年3月8日早朝、東京都台東区の映画館の前の路上で、約1650グラムの生ごみなどを捨てた。罪状認否で被告は起訴事実を認めた。

 過酷な路上生活の影響だろうか。被告の腰はいびつな形に曲がっており、実年齢よりも年上に見えた。
 弁護人「浅草で路上生活をするようになったのはいつから?」
 被告「5年間くらい前」
 弁護人「働いていなかった?」
 被告「仕事がもらえない」
 検察側の冒頭陳述によると、被告は19年夏から映画館に生ごみなどを捨てるようになった。

 弁護人「ごみを捨てた理由は?」
 被告「私の荷物を捨てられた」
 弁護人「どこに置いていた?」
 被告「映画館の裏側に置いていた」
 弁護人「捨てられる前に注意を受けた?」
 被告「2回言われた。置くところがなかった」
 質問が終わる前に早口で答える被告に、弁護人はなだめるように何度か「落ち着いてくださいね」と言った。

 弁護人「何回か生ごみを捨てていたようだけど、なぜ?」
 被告「『ばばあ』だの『こじき』だのと(映画館の人に)言われた」
 弁護人「路上生活をしている限り、またトラブルになる可能性があるのでは?」
 被告「何か仕事をください。何でもいいです」
 弁護人「家もほしい?」

 被告「贅沢は言いません。食べるものだけ。仕事をください。何でもいいです」
 被告は訴えかけるように言った。
 弁護人「家族は?」
 被告「妹がいます」
 弁護人「親は?」

 被告「死にました。いません」
 弁護人「今回捕まって死んだことを知った?」
 被告「一緒に死にたかったです」
 裁判官からの問いに被告の発言は二転三転した。
 裁判官「映画館に恨みがある?」
 被告「ないです」

 裁判官「今はもういい?」
 被告「(恨みが)ないと言ったらうそになる」
 裁判官「外に出たらまたやる?」
 被告「やりません」
 裁判官「なぜ?」

 被告「ここに来るのが嫌です。みんなうちらのことをほっておいてくれたらいいのに。なぜ一言言いたいのかと思う」
 ホームレス犯罪を傍聴するたびに、暗い気持ちになる。ホームレスのことを一くくりに「自由を好んであえて路上生活している人たち」ととらえる人がいるが、少なくともこの被告は違った。仕事が見つからず仕方なく路上生活をしていた。
 弁護人の最終弁論の間、被告は涙を流していた。

 弁護人「勾留(こうりゅう)中、両親が他界していることを知り、親孝行ができなかったと反省している。被告の犯行は路上生活に原因がある。被告は50代後半で社会復帰できる最後のチャンス。台東区の福祉事務所に確認したところ、荒川寮には余裕がある」

 被告の胸に去来していたのはどんな思いだったのだろうか。
 検察側は懲役6月を求刑。判決は4月28日に言い渡される。(末崎光喜)

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