(オカンが)座布団を作ってくれた……ベージュの毛糸の中心にはフェルトを貼り合わせて作った鉄腕アトムのアプリケ……。
リリー・フランキーさん(44)は、ベストセラーになった自伝的小説『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で、幼いころの思い出を振り返っている。
リリーさんは1963年生まれ。アトムのアニメ放映が始まった年だ。物心つくころには、ジャングル大帝、リボンの騎士などが人気に。手塚アニメを浴びるようにして育った子供時代には、優しい「オカン」の思い出が重なる。
そんなリリーさんが手塚プロダクションとの共同制作で描いたのが、「アトムくん」だ。ほっぺがふくらみ、おなかもぽっこり出て、長靴を履いている。まるでプロレスのリングに立つお相撲さんのようだ。今年3月末に発表され、早速、ソフトバンクが携帯電話のデザインに採用。「アトムくんモデル」と銘打ち、近日発売される。
この変わり果てたアトムの姿に、オールドファンからは「ちゃんと空は飛べるのか」「10万馬力出るの?」との質問も寄せられた。これにリリーさんは自信満々に言い返す。「そこは技術の進歩。ボディーが硬い金属でなくてもいい。ぷよぷよの体でも数十万馬力は出せますよ」
この話を、リリーさんに持ちかけたのは手塚プロの側だった。「どうぞ自由に、リリーさんの持ち味を出して」と依頼した。昨年秋のことだ。それからは、「アトムらしさをなくさず、下手な物まねにもならないように」と何度も何度も練り直し、ぷよぷよアトムにたどり着く。
発想はこれにとどまらない。今風のギャルに変身したウランちゃん、妙に男前でシャープな雰囲気のお茶の水博士も作り出した。
さらに、『火の鳥』『ブラックジャック』をリリーさんが手がける計画も持ち上がっている。「早く描きたくて、うずうずしています」。どんなアウトローの外科医が出現することか。
■リリーさんとアニメ■ NHK教育テレビで、『おでんくん』を毎週金曜に放映中。がんで亡くなった母への思いをこめ、『東京タワー』と同時期に、絵本として制作した。主人公はもちきんちゃくの妖精。離ればなれになった母と一緒に暮らすことを夢見ている。