バターの品薄状態が続く。値上げが相次ぐ一方で、品切れになっている店もある。原料となる生乳の生産を増やすなど対策がとられているが、効果が表れるにはまだ時間がかかりそうだ。
東京都目黒区の主婦(65)は4月上旬、料理にバターを使おうとスーパーに買いに行ったが、品切れだった。「2店舗探した後、都心のデパートでやっと見つけて二つ買いました」と話す。「お一人様一つまで」「品薄なので品切れを起こすことがあります」と断り書きをしている店もある。
品薄になってきたのは昨年の秋ごろ。需要が最も多くなるのはクリスマスケーキで業務用、家庭用ともに伸びる12月だが、それから4か月たっても状況は変わらない。
値上げも相次いでいる。よつ葉乳業は4月1日からバター(200グラム)の希望小売価格を30円値上げして360円に。森永乳業は21日から35円の値上げ。雪印乳業、明治乳業も5月から25円値上げする。
消費者がまとめ買いしているのではないかと業界関係者は推測する。また、業務用バターが入手できなくなった一部の事業者が、家庭用のバターを購入しているとの指摘もある。
そもそも長期にわたる品薄状態の原因は何なのか。
社団法人日本乳業協会の常務理事、滝沢喜造さんは「2000年に起きた雪印乳業の事件に行き着く」と説明する。脱脂粉乳を使用して製造した加工乳で集団食中毒が起き、事件後、雪印の主力商品を含め、加工乳の消費が低迷。その結果、脱脂粉乳の在庫が急速に増え、生産を抑えるため原料の生乳が減産された。それに伴い、バターの生産量も減り、昨年度(2月まで)は6万8000トンで、前年度(同)に比べ、3・8%のマイナスだった。
状況に追い打ちをかけたのが、海外の乳製品価格の上昇だ。中国やインドなどの消費量が増え、オーストラリアの干ばつの影響などで価格が高騰した。国内の生乳は牛乳やチーズに優先的に使用されるため、バターにしわ寄せが行った。「これまで経験したことのない状況」(よつ葉乳業)という。
バターの不足分はこれまで国による計画的な輸入(年間4000〜1万トン程度)でまかなってきた。昨年度は約1万2000トンを輸入、今年度は時期を前倒しして輸入する。
生産者は昨年度の後半から生乳の増産体制をとっているが、乳牛の頭数を増やし、生産量を上げるには時間がかかる。廃業する農家も増加していることなどから、予定通りに増産できるかどうか不透明との見方もある。「これからも厳しい状況が続くのでは」と滝沢さんは話している。