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2008年04月16日(水) 00時00分

児童養護施設 変革の時読売新聞


「新小岩ホーム」では、みんなで「ごちそうさま」をした後は、台所で一緒にかたづけをする(東京都葛飾区で)
求められる細かいケア

 児童虐待や育児放棄が増え、子どもたちの受け皿である児童養護施設の中に、大規模集団型の施設のあり方を見直す動きがでてきた。子どもへの細かなケアが求められ、小規模で家庭的なグループホームやユニットケアの必要性が高まっている。(榊原智子)

 東京都のJR新小岩駅近く。商店街の路地の奥にある木造の家が、グループホーム「新小岩ホーム」だ。幼稚園から中学生の子ども5人と保護者役の職員が暮らす。子どもたちは台所や居間のある普通家庭の暮らしを経験しながら幼稚園や学校に通い、旅行なども一緒に楽しむ。

 ここで2年弱を過ごし、今月大学に入学、一人暮らしを始めた19歳のケンジ君(仮名)は、ここでの生活体験をかけがえのないものと話す。

 「大人数で暮らす本園から移り、台所で作りたての温かいご飯が食べられるようになった。個室がもらえて受験勉強にも集中できた」。料理や家事を手伝いながら学び、「将来家庭を持った時にどうすればいいかもわかった」と言う。

 同ホームは、児童養護施設「希望の家」(東京・葛飾区)が運営する四つのグループホームの一つ。「希望の家」は昨秋、老朽化した本園も建て替え、男女二つのグループが各専用空間で独立して暮らすユニットケアに転換した。

 ユニットケアは、施設で暮らす子どもを6〜15人のグループに分け、生活も住居もグループ単位にしたもの。「希望の家」は定員40人の大規模施設だったが、グループホームも手がけてきて、「子どもが家庭的環境で育つ大切さを確信した」と施設長の福島一雄さんは話す。

 元の施設は食堂や浴場も共同利用だったが、各ユニットには専用の玄関や台所、居間があり、メンバーも固定。「職員とのきずなも深まり、社会に出た時の適応力が高まる」と福島さん。虐待などで心に傷を負った子のカウンセリング室も作った。

 戦災孤児の収容施設として発足した児童養護施設は、現在全国に557あり、約3万人の子どもが暮らす。今も大規模集団型が主流だが、近年、小規模なグループホームやユニットなどが少しずつ広がっている。

 背景には、入所児童の様変わりがある。かつて主流だった「貧しい家庭の子」は減り、児童虐待の増加とともに保護された子どもが急増。都市部を中心に多くの施設が“満員”状態で、しかも全体の6割が虐待を受けた子たちだ。

 埼玉県羽生市の児童養護施設「あゆみ学園」も、今年6月から園舎の増改築に着手する。定員50人の大規模施設を四つのユニットに分け、独立した玄関や台所、居間を持つ造りにする。

 5年前から本園のほかにグループホームを作った施設長の丑久保(うしくぼ)恒行さんは、子どもの問題行動が減ることに気づいた。「今は貧困家庭の子に寝食の世話をすればいいという時代と違う。心に傷を持つ子らにきめ細かなケアが必要だ」と話す。

改善へ 国会議員も関心

 1990年代に見直しが進んだ高齢者福祉に比べ、児童養護施設を含めた児童福祉は「終戦直後の水準のまま」と言われる。要因の一つは、「票にもカネにもならない児童養護に関心を持つ政治家がいないから」と関係者らは話す。

 しかし、児童虐待防止法を改正した昨年の国会では、虐待で保護された子らの状況も議論され、「児童養護施設の量的拡充」「入所児童の教育や自立支援の充実」などの具体化を政府に要求。厚生労働省の専門委員会も昨秋、「施設におけるケア単位の小規模化」「職員の専門機能の強化」を報告書で求めた。

 国会議員で児童養護の問題を考えるグループも出てきた。3月24日、東京都大田区の児童養護施設「救世軍機恵子(きえこ)寮」を、超党派の「児童養護を考える会」会長の丹羽雄哉元厚相、塩崎恭久元官房長官ら3人が訪れた。

 古い大規模型の同施設で、学習机やベッドがひしめく6人部屋を視察した議員らは「どこで勉強するの?」などと尋ね、生活環境の貧しさに驚いていた。

 施設関係者から、「虐待された子は自分の体験を再現する」「難しい対応に疲れて退職する職員が少なくない」と説明され、同会事務局長の塩崎さんは、今の施設が直面する困難を知ったという。「虐待を受けた子をケアし、人生を軌道に乗せられるよう支えることは大変な仕事。30年近く見直されていない児童施設の職員配置などの基準を早急に見直すことが必要だ」と塩崎さんは言う。

 児童福祉政策に詳しい東洋大教授の古川孝順(こうじゅん)さんの話

 戦後の孤児対策として生まれた多くの児童養護施設は、「まず食べさせなければ」と収容規模の確保が第一だった。海外では子どもが集団の施設で育つ問題が早くから指摘されたが、日本では見直しは進まなかった。

 90年代半ばには施設の平均入所率は約8割と低くなり、各地で統廃合が進んだが、その後、児童虐待が広がり入所児童も急増した。この10年ほどで小規模化を進める施設は増えたが、まだ全体の2割程度。養育への理念や経営力がある人たちが始めているが、古い体質の施設は関心が薄い。

 複雑化する子どもたちの問題にきちんと対応するには、施設側の意識改革とともに、社会もこうした子どもたちの養育に関心を向け、財源も投じていくことが欠かせない。

 グループホーム 児童養護施設が本園とは別に民家などを活用し、子どもの小グループを一般家庭に近い生活環境で養育する形態。定員6人で、国は2000年から「地域小規模児童養護施設」の名称で補助を行っている。担当の職員も固定される。

http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/mixnews/20080416ok01.htm