ドライブシュートにタイガーショット……。元フランス代表のサッカー選手ジダンは子供のころ、テレビアニメの『キャプテン翼』に夢中だった。
先のW杯で優勝したイタリア代表(通称アズーリ)の面々も、ファンだと公言している。デルピエロは翼の顔の入ったスニーカーを大人になった今も愛用している。トッティはサッカーを始めたきっかけが、この番組。ガットゥーゾは草サッカーを切り上げてでも、放送を見に家に帰ったほどだ。
原作の漫画を描いた高橋陽一さんは、1978年のW杯アルゼンチン大会を見て「なんて面白いんだ」と思い、2年後、翼を世に送り出す。野球が大人気の時代に、日本サッカーを強くしてやろうという意気込みで描いたが、なんと、海外のスター選手をぞろぞろ育てることに。高橋さんは「困ったことになってますね」と言いながらも、目が笑っている。
「ツバサを入団させてくれてありがとう」。2004年には、スペインの名門クラブチーム・バルセロナから招待され、スタジアムの貴賓席から観戦した。併設のミュージアムには、バルセロナのユニホームを着た翼の絵が飾られている。
所変わってイラク。混乱の続く中東の地でも翼は人気者だ。外務省が06年、アラビア語の吹き替え版をイラクのテレビ局に無償で提供して以来、少年たちを夢中にさせている。
ところで、翼が住んでいたのは、静岡県南葛(なんかつ)市という架空の市だ。高橋さんは葛飾区出身。明治時代は南葛飾郡と呼ばれた地域で、故郷の名を広めようと「南葛」と付けた。
声は吹き替えでも、画面は日本の放送そのまま。「南葛」の名も、ユニホームやスコアボードに紛れて世界を駆け巡っている。ジダンやデルピエロが柴又帝釈天を訪れたら、どうなるだろう。電信柱の住所表示が目に入るや、「あーっ」と声を上げるに違いない。