大正期のアニメ『なまくら刀』には、不思議なことに色がついていた。
東京国立近代美術館フィルムセンター(中央区)の研究員、板倉史明さん(33)がルーペでのぞき込む。一コマ一コマがうっすら黄色く染まっている。フィルムそのものを染料で色づけする技法が使われていた。色むらを出し、雰囲気を盛り上げる表現だ。
表も裏も染まっており、板倉さんは「藍(あい)の葉で染めるジーンズのようだ」と思う。検査室でしばらくの間、見とれた。
頭を痛めたのは、映写機にかける方法。良好な状態で見つかったとはいえ、100年近く前の“骨董(こっとう)品”だ。そのまま映写機にかければ、引っ張る力に耐えられずに破断は免れない。デジタル映像に移し替える手もあるが、色むらなど微妙な表現が損なわれるだろう。
そこで板倉さんが頼んだのは、大阪市の映像サービス会社だった。伝統的な染料を使って、フィルムを染色する昔ながらの技術を再現することに成功していた。いったんモノクロの別のフィルムに移し替え、この会社で染色し直したのだ。
先月26日、同センターの試写室。大正のアニメが現代によみがえり、板倉さんらはホッと胸をなで下ろす。スクリーンでは、うっすらした黄色の背景の中で、コミカルな武士が刀を振り回している。
ところで、なぜ黄色なのだろう?
武士が切れない刀で飛脚らを闇討ちしようとする物語は当然、夜のシーンの連続である。街灯もなかった時代に明かりと言えば、お月さまだ。昔の人は「月夜の晩」に、怖い怖い辻(つじ)斬りを連想したのかも。現代っ子はオオカミ男というだろうけど。
■発掘された映画たち2008■ 東京国立近代美術館フィルムセンターが24日から、近年発掘・復元した映画を上映。アニメは『なまくら刀』『浦島太郎』(1918年公開)など9本。日程など問い合わせはハローダイヤル(電)03・5777・8600。