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2008年04月07日(月) 13時03分

渋井哲也のネットウォッチング「自民党『有害ネット対策』 高市早苗議員に聞く」オーマイニュース

 インターネットの有害情報対策として、自民党は内閣部会と青少年特別委員会で、「青少年の健全な育成のためのインターネットの利用による青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案」を議論中だ。

 青少年特別委の委員長で、法案作成の中心的な役割を果たしている高市早苗・衆議院議員に、衆議院第一議員会館内の事務所で話を聞いた。

法律案の概要図を見る

◆個人の案はかなり書き直した

 内閣府の「有害情報に関する特別世論調査」(2007年9月調査、個別面接聴取、有効回答58.9%)によると、インターネット上の有害情報規制について、「規制すべき」は68.7%、「どちらかといえば規制すべき」も22.2%で、9割以上の人がなんらかの規制を望んでいる。

 このため、自民党では内閣部会と青少年特別部会との合同で審議してきた。法案作成作業はすでに条文化の段階に至っている。今後は、関連事業者の意見を聞く段階に入る。

 「この法律は、内容的に、PCメーカーに努力義務を課す部分は、経済産業省に関係が深く、携帯電話会社やインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)の努力義務に関わる部分は、総務省に関わります。私は個人的に、2年前から法案を考えてきましたが、その個人案は党内の議論の過程で、かなり書き直しました。それから各省庁に話をふって、その中で懸念事項を聞いて、その段階でもう一度書き直しました」

 青少年(18歳未満)の有害情報閲覧防止を目的とする法案では、「青少年有害情報」を以下のように定義している。

(1) 人の性交などの行為又は人の性器等の卑わいな描写その他の性欲を興奮させ又は刺激する内容の情報であって、青少年に対し性に関する価値観の形成に著しく悪影響を及ぼすもの

(2) 殺人、傷害、暴行、処刑等の場面の陰惨な描写その他の残虐な行為に関する内容の情報であって、青少年に著しく残虐性を助長するもの

(3) 犯罪若しくは刑罰法令に触れる行為、自殺又は売春の実行の唆し、犯罪の請負、犯罪等の手段の具体的な描写その他の犯罪等に関する内容の情報であって、少年に対して著しく犯罪等を誘発するもの

(4) 麻薬等の薬物の濫用、自傷行為その他の自らの心身の健康に害する行為に関する内容であって、青少年に対して著しくこれらの行為を誘発するもの

(5) 特定の青少年に対するいじめに当たる情報であって、当該少年に著しい心理的外傷を与えるおそれのあるもの

(6) 家出をし、又はしようとする者に向けられた情報であって、青少年の非行又は児童買春等の犯罪による青少年の被害を著しく誘発するもの

◆フィルタリングは手段のひとつ

 青少年が携帯電話でインターネットにアクセスする場合、2月末から(イー・モバイルは4月末から)、初期設定で、フィルタリング措置(=アクセス制限)が採られるようになった(それ以前は、事後的に、アクセス制限を選択していた)。

 「フィルタリングは手段のひとつです。今でも『有害図書類』は各自治体が条例で指定しています。インターネット上の情報についても、条例で対策をとっている自治体があります。罰則を設けているところもある。けれども、表現が具体的でない場合が多い。法律の場合、具体的でない条文で罰則があっては大変。だから、この法律の条文は(上記のように)例示をあげています。しかし、たとえば残虐性といっても、『どの程度の残虐性なのか』が問題になる。程度については国家は決められない。そこで、青少年健全育成推進委員会を、各省庁からも、政党からも独立した独立行政機関として設置します」

 この委員会は内閣府に設置され、「青少年有害情報」に関するさらに詳細な規則(委員会規則)を作り、公表する。これらの規則によって、「青少年有害情報」のより具体的な指針(ガイドライン)が決定される。

 ガイドラインに違反した情報があった場合でも、情報を発信したウェブサイトの管理者に、委員会が削除要請することは、表現の自由の観点からはできない。そのため、管理者はあくまでも自主的な判断で情報を残すか削除するかを決められる。ただし、残す場合は、フィルタリングの対象になってしまう。委員会は管理者に対し、会員制サイトへの移行を促す。

 同法案では、委員会や総務大臣、経済産業大臣(以上、主務大臣等)は、ISPや携帯電話会社に対し、是正命令を下すことができる。ISPや携帯電話会社は、青少年の利用時には、フィルタリングサービスを条件とし、青少年に有害情報を閲覧させないようにしなければならない。違反した場合は、罰則がある。その代わり、情報の発信者やサイトの管理者には、表現の自由の観点から指導はしない、というロジックだ。

 「条文には、(ISPや携帯電話会社が)『青少年有害情報についてインターネットによる発信が行われたことを知ったときには』とあります。通報があった場合に、どういう手順で何をすればいいのか、といったガイドラインを委員会に作ってもらいます」

 また、フィルタリングソフトの開発事業者には、指針に適したソフト開発や有害情報データベースの随時更新が努力義務となっている。機器メーカーには、フィルタリングソフトをプリ・インストール(初期搭載)することも努力義務としている。

 「現在でもフィルタリングをしていただいています。しかし、たとえば、ホワイトリスト方式(閲覧できる優良情報のリストアップ)ですと、必要な情報があるのに、閲覧できるサイトが限定される、といった声があります。一方、ブラッックリスト方式(閲覧できない有害情報のリストアップ)で大雑把なカテゴリでくくってしまうと、本来健全なサイトなのに、はじかれてしまうといった声もあります。SNSは特にそうです。ですから、今の問題点を解消するために、総務大臣が指針をつくって、開発業者にお願いをするといった形です」

 フィルタリングは技術的な面が左右するため、ソフトの精度によって遮断される情報が変化する。

 「将来技術が進んだり、取り組みが進めば、私はこの法律自体、いらなくなると思っているんです。だけど、今のレベルでの対応では、年齢認証もなく有害情報を見ることができます。表現の自由も保障しなければならないので、どんなものを作っても自由だし、大人は大人で判断をしたり、危険なことから身を守ることも一定の年齢になればわかると思います。ただし、18歳未満に関しては、なるべくアクセスさせない形を作ろうと思います」

◆独立した委員会が詳細な基準を決める

 とはいえ、「残虐性」の定義もどのように考えるべきは議論が分かれるだろう。例えば、ダライ・ラマ法王日本代表部事務所が公式サイトで遺体の写真を載せている。それは「残虐性」に該当するのだろうか、しないのだろうか。また、性情報について、青少年がまったくアクセスできなくなる可能性があるのではないか、といった懸念がある。

 「(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所の死体写真は)該当しません。戦争の報道写真、人権侵害の起こった報道写真についてはひっかからないです。(性情報についても)普通に思春期の青少年が見て楽しむものは該当しないことを想定しています。そういうことを担保するために、独立した委員会に詳細を決めてもらう」

 法案は、インターネットカフェも規制対象とし、青少年の客には見通しのよい客席への案内や、フィルタリング機能搭載のパソコン提供を求めている。

 「複合カフェ協会に入っているカフェには、よくやっていただいています。年齢確認をして、青少年であれば、フィルタリングのあるパソコンに案内していると理解しています。ただ、協会に入っていない業者が好き放題しているとの話もありました。協会の規定の中から条文化しました」

 これらの制度のなかで、たとえば自社サイトが青少年有害情報に定義されて、異議申し立てをしたい場合がある。その場合は、新設される「指定青少年有害情報紛争処理機関」が担うことになる。同機関は、主務大臣等が社団法人や財団法人の中から指定する。

 「今想定しているのは、インターネット・ホットラインセンターやインターネット協会です。ただし、莫大な量の情報を監視はできないし、常時監視する義務は負っていません。監視することはコストがかかりますから。そのため、条文のあちこちに、『知ったときは』という文言を入れました。私が期待しているのはこの調整機関です。ノウハウのある業界団体があるので、ぜひ加わっていただきたい」

(記者:渋井 哲也)

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