オウム真理教の破産手続きで、東京地裁は26日、第16回債権者集会を開き、破産管財人の阿部三郎弁護士が、最終配当の許可申請を同地裁に行うことを正式報告した。
配当総額は16億円超で、このうち被害者分は約15億円、最終配当率は約40%となる見通しだ。
これにより教団の破産手続きは事実上、終結を迎える。1996年から12年間に及んだ破産手続きは「被害者の救済」と「教団封じ」という大きな役割を果たしたが、課題も残されている。
◆奔走
債権者集会には、地下鉄サリン事件で夫を失った高橋シズエさん(61)ら約50人が参加。阿部弁護士は「配当許可は31日に出る見通しで、管財業務は、この段階で終了したい」と、事実上の終了宣言を行った。
「被害者への配当を少しでも増やすため、教団の資産で売れるものは何でも売った。40%の配当が出来るとは正直、思っていなかったが、関係者の協力でここまで来られた」。阿部弁護士は、区切りとなる集会を前に、こう語っていた。
破産宣告が出されたのは96年3月。当初、被害者らが破産を申し立てた狙いは、教団資産を差し押さえ、資金面から教団の活動を封じ込めることにあった。
阿部弁護士は、全国に点在する教団施設から信者を立ち退かせ、施設に隠されていた金の延べ板や、教団が所有していた機械類、薬品類まで売却。スリランカの茶畑といった海外資産も買い手探しに奔走した。今年2月には、捜査当局が押収していた証拠品の無償譲渡を受け、自動小銃の部品など約5トン分の鉄くず、各国通貨、松本智津夫死刑囚(53)の図柄入りテレホンカードまで売りさばいた。
一方で国会議員に働きかけて、国が債権を事実上放棄する特別法の制定を実現させるなどし、通常10〜15%とされる配当率を40%にまで引き上げた。
◆不十分な救済
それでも、教団が被害者に支払うべき約38億円のうち約23億円が未払いのまま残る。「これは普通の破産事件とは違う。テロの被害者には100%の賠償が必要だ」と阿部弁護士は言う。
地下鉄サリン事件で被害に遭い、この日の集会に車いすで出席した浅川幸子さん(44)。事件後約8年半を病院で過ごし、現在は兄の一雄さん(48)宅で暮らす。重い全身マヒが残り、家族の支えが欠かせない。同居のため自宅を改修した費用や介護費用など、その大部分は自己負担だ。一雄さんは「拘置された加害者は国に衣食住を提供されているのに、被害者は国に頼れない。不釣り合いだ」と嘆く。
交通事故の場合、加害者に賠償請求できない犠牲者の遺族には国が3120万円まで補償するが、阿部弁護士によると、オウム事件の被害者への配当はこの水準に達していないという。
◆補償額
被害者の救済については、今後、国がどこまで補償するかが焦点となる。
救済範囲については、与野党ともに原則、全被害者を救済対象とすることになったが、金額については被害の程度に応じて支払うとする自民・公明案と、破産手続きで認められた賠償額全額を国が肩代わりするという民主党案とで対立。阿部弁護士は「国が未払い分全額を補償し、教団から取り立ててほしい。教団監視にもつながる」と話している。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080326-OYT1T00405.htm