最近まで規制法や監督官庁のなかった「無認可共済」最大手のエキスパートアライアンス(加入者36万人)が、加入者拡大の原動力となった連鎖販売取引(マルチ商法)をやめることが分かった。4月に無認可共済への規制が強化されるのに伴い生命保険会社に衣替えする予定だが、金融庁から免許を取得するためにはマルチ商法の継続は困難と判断した。これを機に同社と同様にマルチ商法を使って成長してきた無認可共済の多くが淘汰(とうた)されるのは必至だ。
マルチ商法とは、購入者が販売員にもなって、新たな購入者を誘う販売手法をいう。「無限連鎖講の防止に関する法律」で禁じられている「ねずみ講」と似た仕組みだが、マルチは商品やサービスが介在するために合法とされている。
もともと化粧品や健康食品などの販売に使われてきたが、最近は金融商品にも広がり、エキスパートをはじめ数十の無認可共済がマルチやマルチまがい商法を展開し、総額で数百億円の掛け金収入を得るほどの勢力になっていた。
ねずみ講と同様、加入者を増やせば増やすほど上位者の収入が増えていくシステムのため、「勧誘がしつこい」「信用できない」などの苦情や相談が相次いだ。各地の消費生活センターに寄せられたマルチ共済に関する相談は06年度で約330件と6年前の10倍以上になった。
ここ数年、金融庁が契約者保護の姿勢を強めていることもあり、エキスパートは、トラブルを招きやすいマルチ商法のままでは免許をとるのは無理と判断した。
生命保険会社になる場合、販売員には「保険募集人」の資格登録が義務づけられ、研修も必要になる。現在11万人いる同社販売員のうち資格登録を予定しているのは約1万人とされ、保険契約者が次々に勧誘する販売手法の維持も難しくなった。ただ、マルチをやめるのは新規契約分からで、既契約分は従来通り手数料を払うという。
数百ある無認可共済は3月末までに(1)保険会社になる(2)少額短期保険業者になる(3)既存の契約を移転して廃業する、のいずれかを選ばなくてはならない。保険会社、少短業者ともに厳しい審査があるため、すでに廃業する共済が相次いでおり、マルチ商法を使った共済が生き残るのはほぼ不可能とみられる。
エキスパートは、外資系保険会社の社長も務めた中川博迪(ひろみち)氏(現在は持ち株会社社長)らが設立。故障車のレッカー移動サービスなどを手がけ、99年からは共済の販売も始めた。入院・手術や死亡時、要介護時に現金を払う共済や、火災・盗難時に現金を払う損害保険に似た共済も扱っていた。
販売員は「エージェント」と呼ばれ、新たに加入者を集めると、最大で共済掛け金の十数%の手数料を得られる。自ら勧誘した加入者だけでなく、その加入者が集めた新規加入者、さらに次の加入者と、自分から数えて5番目の加入者分まで手数料が入る仕組みだ。
こうした手法を使い、同社は生命保険会社の保険料収入が伸び悩むのを尻目に急成長を遂げ、02年にはJR東京駅前の高層ビルに本社を構えた。06年度の収入は346億円。しかし、マルチ商法をやめると、販売網の拡大は望めず、業容の縮小は必至とみられる。
〈無認可共済〉 共済は、特定のグループの構成者がお金を出し合い、事故などのリスクに備える相互扶助の仕組み。不特定多数を対象に加入者を募る保険とは区別されてきた。しかし、「特定」の定義があいまいで、掛け金が保険よりも割安なことから保険会社なみの加入者を抱える共済も登場。多額の資金をだましとった97年のオレンジ共済事件もあり、保険業法を改正、規制の網がかけられた。JA共済や全労済など根拠法や監督官庁がある共済は「認可共済」と呼ばれ、無認可共済とは区別されている。
〈連鎖販売取引=マルチ商法〉 購入者が販売員にもなって新たな購入者を増やしていく商法で、勧誘できれば手数料が得られる。ピラミッド形に販売網を広げやすい。「ネットワークビジネス」とも呼ばれる。米国での無店舗販売システムが発祥とされ、日本には70年代から浸透した。販売員が在庫を抱えて、立ち行かなくなるなどトラブルも多く、法規制が厳しくなってきた。04年の改正特定商取引法で、クーリングオフ期間後も一定条件を満たせば返品できるようになった。 アサヒ・コムトップへ
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