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2008年03月21日(金) 00時00分

真実知る痛み 無期の無念読売新聞

豪憲君両親
米山家のムードメーカーでもあった豪憲君。勝弘さん夫妻の悲しみは深い

 「遺族の立場としては、どうしても納得できない判決でした」——。畠山鈴香被告(35)に無期懲役の判決が下った翌日の20日、殺害された小学1年の米山豪憲君(当時7歳)の父、勝弘さん(41)は読売新聞のインタビューに応じ、怒りを抑えるように静かな口調で語り出した。

 19日朝、自宅の仏壇に飾った豪憲君の遺影に手を合わせ、「力を貸してくれ」と語りかけた。「毎日していることですが、判決の出るこの日は特に豪憲に助けてもらいたいという気持ちでした」

 豪憲君の机の上にもう一つの遺影が飾ってある。妻の真智子さん(41)は、遺影を風呂敷で包み、秋田地裁に向かった。

 午前10時すぎ、1号法廷の傍聴席に夫妻そろって腰を下ろした。真智子さんは遺影を胸に抱き、勝弘さんは両手をひざの上に載せ、判決が出るのを待った。

 藤井俊郎裁判長は判決の冒頭で、「無期懲役」を告げた。

 勝弘さんは「無期懲役の言葉が耳に届いた瞬間、頭が真っ白になり、しばらくぼう然としていました」。真智子さんはタオル地のハンカチで顔を覆い、声を抑えながら泣きじゃくった。勝弘さんは、左隣に座っている真智子さんが体を震わせているのが分かった。

 勝弘さんは「裁判官の方々には遺族の思いを理解してもらった」と思っていた。

 裁判長は、鈴香被告の長女で小学4年の彩香ちゃん(当時9歳)への殺害、豪憲君に対する殺害をともに認定したうえで無期懲役を言い渡した。

 勝弘さんは裁判長の判決文の朗読を聞きながらこう思っていた。「両事件とも殺意が認定され、検察側の主張もどんどん認められていく。無期懲役は何かの間違いなのだろうか、最後に死刑の判決が下るはずだ」

 勝弘さん夫妻は判決まで14回の公判を欠かさず傍聴してきた。豪憲君が殺害された無残な状況を一部始終説明するのを耳にした。鈴香被告が豪憲君の首を絞めた時間を「10分ではなく、5分ぐらい」などと検察側の主張に反論する姿も見た。そして、鈴香被告が公判中につけた日記に、夫妻に対し、「何でそんなに怒っているのかわからない。まだ2人も子供がいるじゃない」と書いていた侮辱の言葉に憤りを覚えた。

 「精神的には大変つらいものでした。真実を知りたいという気持ちから傍聴してきました。でも、その苦痛、悲しみというのは本当に体験した人でないと分からないと思います。そのつらさは本当に表現できません。それに耐えて裁判所に通い続けてきたのです。その最後の最後で無期懲役の判決というとんでもない苦痛が待ち受けていました。本当に無念でした」

     ◎

 判決の言い渡しが終わった後、鈴香被告は法廷で「申し訳ありませんでした」と話し、突然、夫妻に向かって土下座した。

 勝弘さんは、友人が「鈴香被告は死刑じゃなかったから土下座したんじゃないのか」と言うのを聞いて同感だと思った。「土下座をして、たった数時間のうちに、控訴したんです。それで謝罪と言われても信じることなどできません。いったいどんなつもりなんだと怒りを感じました」

 閉廷後、勝弘さん夫妻は検察官から「今日の判決はどうでしたか」と尋ねられた。夫妻は「豪憲は殺され、鈴香被告は生き続けるのはどうしてだろう。いつか刑務所を出所する可能性のある無期懲役というのは納得できない」と思っていた。真智子さんはその思いを伝えようと、「豪憲が殺されて……」と口にしたが、むせび泣き、それ以上は話すことができなかった。

     ◎

 自宅に戻り、勝弘さんは判決をどう豪憲君に報告していいか分からず、1〜2時間悩んだ。そして、仏壇の遺影に手を合わせ、「まだ(裁判が)終わったわけじゃないよ。だから力を貸して」と呼びかけた。

 仏壇の近くには、豪憲君のランドセルが置いてある。今月4日、秋田地検から返却された数十点の証拠品だ。ランドセルの中には、返却された教科書、筆箱、連絡帳、プリント類などが収められている。

 勝弘さんは「やっと帰ってきた」と思ったが、血の付いた衣服や、豪憲君が使っていた学用品を見ると、事件当日のことを思い出した。今も、脳裏に豪憲君の姿がよみがえることがある。

 「笑ったり、走ったりしている日常の風景の一コマなんですが、連想が働くと、鈴香被告が法廷で証言している場面も思い出してしまうんです。ものすごく複雑な気持ちになります」

 判決から1日たって頭に浮かぶのは「結果責任」という言葉だ。「子供2人を殺した罪が、どうして計画性が弱いと減軽の対象になるのか、何度考えても分かりません。複数の尊い命を奪ったという結果こそが、人を裁く根拠になるのではないでしょうか」

 5月10日、豪憲君の誕生日がやって来る。真智子さんが焼いたイチゴのケーキを家族で食べ、豪憲君の仏壇に供えるつもりだ。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/akita/feature/akita1206076020175_02/news/20080321-OYT8T00444.htm