カード会社が利用者への「ポイント」発行のサービスを絞り始めた。人気の高い航空会社の「マイレージ」(航空券とも引き換えられるポイント)との交換比率を引き下げたり、電子マネーへの入金時のポイント付与をやめたり。カード会社の収益悪化が背景だ。
業界大手の三井住友カードは4月16日から、三井住友VISAカードを1000円使うごとに付くポイントを全日本空輸(ANA)のマイレージと交換する条件を変更。毎年度の手数料6300円を無料にするが、比率を1ポイント=10マイルから1ポイント=3マイルに下げる。単純計算では、従来は150万円分のカード利用で1.5万マイルたまり、国内線の特典航空券に交換できたが、今後は500万円分のカード利用が必要。ANAとの提携カードでは、1ポイント=5マイルへの引き下げか手数料の値上げになる。
オーエムシーカードや楽天KCなども、自社のポイントとマイレージの交換比率をすでに引き下げた。カード会社は、交換するマイレージを航空会社から買い入れており、ポイント価値を下げて費用負担を減らす狙いだ。
Edy(エディ)など電子マネーへの入金に使われた場合のポイント付与をやめる会社も相次いでいる。
カード会社は貸金業法の改正でキャッシング(現金貸し出し)の利率が制限されて収益が悪化している。
■「おまけ」か「お金か」
カード会社のポイントと航空会社のマイレージとの交換比率の引き下げは、サービスを織り込んで買い物をしてきた利用者の不満を呼ぶ可能性がある。国民生活センターには「近所のスーパーが倒産したが、ためていたポイントはどうなるのか」との相談もある。
主要企業は、ポイント制度について「任意に終了でき、未使用分は取り消される」などと規約で定めており、入会時に同意したことになっている。いわば、買い物に付いてくる「おまけ」の位置づけだ。このため利用者側の権利が弱く、保護ルールも必要とされてこなかった。
海外では破綻(はたん)した航空会社のマイレージの扱いが注目された。01年の豪アンセット航空の破綻ではマイレージが実際に失効した。ただ、ユナイテッドなど米大手航空会社の場合は、連邦破産法を申請してもマイレージが守られた。
国内でも、ただの「おまけ」とは言えないほど、ポイントの発行量は拡大している。野村総合研究所の推計では、航空、カード、家電量販など9業界の主要企業だけで、06年度に6600億円分のポイントを発行。12年度には7800億円分に成長するという。
03年ごろからは、航空会社を中心とする異業種間のポイント提携が加速。電子マネーで買い物するとポイントが付いたり、ポイントを電子マネーに換えられたりもできる。専門サイト「ポイ探」は、会員の「ポイント資産」の順位を公表しているが、最高額は約273万円分。もはや「金融資産」に近い。
■規制の議論も
経済産業省は昨年、主要発行企業による研究会を開催。保護ルールも検討した。結局、「一律の規制やルールを設ける強い必要性は確認できない」と見送ったが、「潜在的には問題が起きる可能性も否定できない」(流通政策課)とし、規制に含みを残す。
金融庁も、独自にポイント規制を検討し始めた。ポイントの中でも、他社ポイントや電子マネーと交換できるような流通性の高いものになると、「電子マネーと区別できない」(幹部)との見方があるからだ。
電子マネーのうち、残金の情報がカードや携帯端末に載るタイプは、すでに規制されている。商品券やプリペイドカードを対象としてきた前払式証票規制法(プリカ法)で、残金の半額以上の供託などを義務づけており、電子マネーの発行企業が破綻しても、一定額を取り戻せる。金融庁は、来年の通常国会に向け、この規制範囲を拡大する法案を検討中で、一部のポイントも議論の対象になる可能性がある。
■企業に厳しい会計基準
ポイントが「お金」の性格を強めると、発行企業側はこれまでより厳しい会計処理を迫られる。利用者がためているポイントが使われた場合に、経営にどの程度影響があるか、はっきりさせておく必要があるからだ。
日本では今のところ明確な会計基準はないが、多くの企業は発行ポイントのうち実際に使われそうな金額を見込み、費用として引き当てている。ただ、それが十分かどうか判断するのは難しい。
世界約100カ国が採用する国際会計基準は昨年の指針で、発行ポイントを全額負債に計上するよう求めた。
日本は国際基準とのすり合わせを進めており、「いずれ同様の処理を求められる可能性がある」(あずさ監査法人の山本守・代表社員)。そうなれば発行企業は積み増しを求められる。これが引き金になってポイントの発行量が落ち込み、消費にも影をおとす「制度不況」(野村総研)の可能性も指摘されている。 アサヒ・コムトップへ