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2008年03月03日(月) 00時00分

(4)裏サイト 牙むく「友達」読売新聞


講習会で携帯電話の危険性を話す全国webカウンセリング協議会の安川理事長(2月24日、東京都立川市で)=田中成浩撮影

 〈死にたい…消えたい…もう学校なんか行きたくない…皆が怖く見える…やだ〉

 昨年10月末、中国地方の中学3年の女子生徒(当時14歳)が、貨物列車に身を投げて自殺した。女子生徒は自殺の1か月半前、携帯電話のサイトに匿名で開いていたブログに、こんな書き込みを残していた。

 女子生徒が〈死にたい〉と書いた日、親しい友達しか知らないはずのブログに匿名で書き込みがあった。

 〈あなたがきたら皆が頑張って練習している40人41脚が台無しね〉

 女子生徒は体が弱いこともあって学校を休みがちだったが、運動会を目前に控えた当時は登校に意欲を見せ始めていた。担任の先生や母親には、「書いた人に謝ってほしい」と訴えた。学校は直後に開いた全校集会で、ネット上の中傷をやめるよう注意したが、書き込んだ生徒を特定しようとはしなかった。

 死を選んだ本当の理由はわからない。交友関係がもつれて、別のネットの掲示板などに実名がさらされ、〈うざいから早く消えればいいのに〉〈あいつまじ死ね〉と書き込まれたこともあった。高校入試など将来への不安もあった。

 だが、母親は「ネットによるいじめで、精神的に追い込まれたと思う」と話している。「小さな悪意がどれだけ人を傷つけるか。軽い気持ちなら罪がないなんてことはない」と涙ぐんだ。

 警察は今年2月下旬、ブログに「台無し」などと書き込んだ同級生を、女子生徒を侮辱したとして家庭裁判所へ書類送致した。

 いじめなどの相談を受ける全国webカウンセリング協議会によると、年3000件の相談の3分の1がネットによる中傷だ。中でも、中・高校生が校内の情報交換を目的に開く「学校裏サイト」を巡るSOSは、2年ほど前から急増した。

 「人と話しながら、『この人は裏切るんじゃないか』と考えてしまう」。都内の専門学校に通う男性(20)は今も苦しむ。

 高校2年の秋、学校裏サイトに授業中の自分の写真を張られ、住所を書き込まれた。〈オシャレしててもこんな顔〉〈ここに集まってパーティーをしよう〉。

 二つのアドレスから1文字ずつ〈死〉〈ね〉とメールが送られてきた。

 いじめから逃れようと、何度かメールアドレスを変えた。しかし、友達に伝えると、再び1日100件超の「いじめメール」が届き始めた。会えば笑顔で接する級友は、「皆仮面をかぶっているように見えた」。眠れなくなり、学校は休みがちになった。

 茶色がかった地毛を黒く染め、服装を地味にした。「もういじめても面白くない」と、「標的」が別の生徒に移ったのは、それからしばらくしてからだ。

 学校裏サイトは、協議会が確認しただけで1万5000、実際は30万以上とみられる。安川雅史理事長は「メール返信が遅れただけでもいじめられる。携帯に縛られる子供たちを救うのは、親や教師ら身近にいる大人の責任」と訴える。

 文部科学省は学校裏サイトの実態把握に乗り出した。三重県伊賀市では中学校12校の先生が監視する。しかし、パスワードが必要な裏サイトも多く、中身を見られないこともある。少しでも注意を促す書き込みがあれば、すぐに閉鎖され、別のサイトができる。

 子供たちの小さな悪意の連鎖を止める有効な手立ては見えない。

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