「ヤクザとアニメはお断り」——。西武新宿線・上井草駅前(杉並区)の不動産屋の店頭には、そんな張り紙が掲げられたことがある。1960年代半ば。アパートの家主たちはアニメに携わる若者たちを「不気味」としか思わなかった。
上井草にはこのころ、制作会社が雨後の竹の子のように生まれた。多くが動画を手がける下請け会社。東映アニメーション(練馬区東大泉)や虫プロダクション(同区富士見台)、東京ムービー(杉並区成田東)など大手がお客さん。
近い、というのがただ一つの理由だ。大きな工場の周囲に部品工場が集まるのに似ている。
寝癖のついたボサボサ頭にメガネ。よれよれのシャツ、ひげは伸びっぱなし。夜中にうろうろしていることが多く、きちんと勤めている人にはとても見えない。そんな若者がわずかの間にどっと増え、住民は大いに戸惑った。商店組合理事の鈴木定雄さん(74)は「過激派か、ヒッピーか、という感じ。当時は治安も良くなかったし、みんな警戒していた」と振り返る。
この街からは、やがて『機動戦士ガンダム』が生まれる。経営難に陥った虫プロから独立したスタッフらが72年、制作会社「サンライズ」を設立。駅前の貸しビルの一室から飛び出したヒーローは、今や世界中で子供たちの心をとらえている。
この22日、駅南口にガンダムの銅像が置かれた。商店主らが街の顔にしようと区に呼びかけ、約2000万円をかけて制作されたものだ。「上井草の英雄」(鈴木さん)はこの日、一瞬、姿を現したものの、すぐにシートをかぶせられた。3月23日の式典で改めてお披露目される。
■機動戦士ガンダム■ 1979年に放映開始。リアルな戦争描写と、善悪二元論ではない人間観がファンの心をつかむ。「坊やだからさ」「悲しいけど、これ戦争なのよね」「親父(おやじ)にもぶたれたことないのに」などのせりふも話題に。24世紀の地球を舞台にした「00(ダブルオー)」が放映中。