育児用品大手のピジョン(東京都中央区)製の哺乳(ほにゅう)瓶消毒バッグが電子レンジで加熱中に破裂し、飛び散った熱湯でやけどを負うなどの事故が相次いでいる。事故や不具合は10年間で少なくとも80件、負傷者は13人にのぼる。98年の発売直後から続いていたが、ピジョンは「製品の構造上の問題ではない」として今年1月まで販売を続けた。回収の予定もないという。
破裂した電子レンジ用消毒バッグ。レンジメーカーが状況を再現して撮影した=鹿児島市の主婦提供
事故が続いたのは「電子レンジスチーム消毒バッグ 出し入れ簡単」。樹脂製の透明な袋で、中に哺乳瓶と水を入れてレンジで3分間加熱すると消毒できる。コンパクトさと便利さが人気で、ピジョンによると、10年間で計約300万個売れたという。
不具合の多くは加熱中に袋がさけたり、封が開いたりした。レンジの扉が突然開き、飛び散った熱湯で子供がやけどをしたり、ガラス瓶が粉々に割れて飛び散ったりした事故もあった。負傷者13人は、いずれも軽傷のやけどだった。
一連の事故の原因について、ピジョンは「原因を特定できていないが、製品に構造上の問題はなかった」とする一方で「消費者による誤使用はなかった」としている。
98年3月の発売直後から、同社の消費者窓口には事故のクレームが寄せられていた。封を改良したり、使用上の注意書きを何度か変えたりしたが、再発を防げなかった。昨年11月に製造を中止、今年1月末で販売も中止した。消費者に対しては、薬局などの店頭広告やホームページで注意を呼びかけているという。
被害者に対し、補償金の支払いや製品交換に応じてきたものの、事故は公表せず、今年1月28日まで国にも報告していなかった。昨年11月に鹿児島市へ寄せられた被害者からの相談をきっかけに、独立行政法人・製品評価技術基盤機構(NITE(ナイト))が同社に調査を要請。2月中旬にあった報告を基に27日、企業名を伏せて全件を公表した。
昨年5月に施行された改正消費生活用製品安全法は、死亡事故や火災など重大な事故を引き起こした製品のメーカーや輸入業者に、把握後10日以内の国への報告を義務づけている。だが、軽傷の事故は、経産省が業界団体や自治体への通達で、NITEへの報告を呼びかけているだけだ。
ピジョンは「原因はなお不明だが、事故を踏まえて製造・販売を中止した。けがをしたお客さまには誠実に対応したい」と話している。
●瓶粉々「近くに息子いたら…」
昨年11月3日夜、鹿児島市の主婦(27)は電子レンジ用消毒バッグが破裂した瞬間を克明に覚えている。隣室で生後1カ月の長男に授乳している時だった。
ボカーンと爆弾が爆発したような音がした。
レンジの扉が開き、セラミック製のターンテーブルが一部割れていた。約8畳あるリビングに哺乳(ほにゅう)瓶が粉々になって飛び散り、ソファに細かなガラス片がささっていた。
消毒バッグを使ったのは育児を手伝いに来ていた母(58)。レンジのそばにいたが、背を向けて洗い物をしていて、けがはなかった。顔が青ざめていた。目立つように書いてあった使用上の注意の通り、瓶と乳首を分解してバッグに入れ、水の量や時間なども守っていたという。
1箱5枚入りで約500円という安さと手軽さにひかれて使ってきた。
もし部屋に赤ちゃんがいたら——。恐ろしさがこみあげ、早くメーカーに知らせないといけないと思った。すぐにレンジメーカーに連絡。ピジョンにも伝えてもらった。
レンジを持ち帰った家電メーカーからは異常がなかったとの調査結果が出た一方、まもなくピジョン側も「原因を特定できなかった」と回答。
「別のお母さんや赤ちゃんに被害が出るといけない。安全が確認されるまで店頭から商品を回収してほしい」と当時、主婦は訴えた。今回NITEから多数の事故事例が公表され、けが人もいたと知り、「もっと早く対応できなかったのか」と憤った。
◇
ピジョンは消毒バッグの使用方法の問い合わせや事故・不具合の連絡を「お客様相談室」で受け付けている。電話は03・5645・1188(平日午前9時〜午後5時)。 アサヒ・コムトップへ
http://www.asahi.com/national/update/0228/TKY200802280209.html