27年前、「ロス疑惑」として社会の関心を集めた事件が、新たな展開を見せている。
疑惑の中心人物だった元輸入雑貨会社社長の三浦和義容疑者が、米自治領サイパン島で、米国ロサンゼルス市警に逮捕された。
同市内で1981年11月、共犯者と共に当時の妻の一美さんを銃撃して殺害した、などとする容疑だ。三浦元社長はロサンゼルスに移送される。
米国には重大な殺人事件について時効制度がない。「まだ米国は捜査を捨てていなかったのか」と、日本の元捜査幹部らは驚いている。米側は日本側に「新証拠があった」と説明しているが、起訴されるかどうか、見通しはつけにくい。今後の捜査は、どう展開するのか。
殺人罪と、一美さんに掛けた保険金約1億6000万円を詐取したとする詐欺罪について、日本では5年前、最高裁で三浦元社長の無罪が確定している。もう1件の、元女優に一美さんを襲わせた殴打事件では、殺人未遂罪で懲役6年の実刑判決を受け、服役を終えた。
日本の憲法には、無罪とされた行為について刑事上の責任を問われず、また同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない、とする「一事不再理」の原則がある。
しかし、この原則は、国境を越えて海外までは及ばない。日本の刑法も、外国において確定判決を受けた者でも、同一の行為について更に処罰することを妨げない、と定めている。
三浦元社長は無罪判決が確定後、何度かサイパンに渡航していた。逮捕状を執行された際、「日本では無罪判決が出ている」と異議を唱えたというが、法的には何の問題もない。ロス市警は、三浦元社長が米国に旅行する機会を狙っていたのかも知れない。
実行犯がわからず、物証が全くない事件だった。日本側には、犯行現場が海外という難しさもあった。
1審判決は無期懲役だったが、2審は逆転無罪とした。2審判決は、「モザイク状の間接事実を多数、積み重ねて犯罪の全体を立証するという微妙、困難な事件」だったと指摘している。最終的には「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の原則が貫かれた形となった。
一般的に、米国では、容疑を認めれば司法取引で量刑が決まる。否認した場合は、市民から選ばれた陪審員が有罪か無罪かを決めるのが通例だ。
日本と異なる米国の刑事手続きや司法制度の下で、事件の真相解明に、どんな結果がもたらされるのか。日本の警察や司法関係者にも重大な関心事である。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080224-OYT1T00688.htm