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2008年02月24日(日) 03時09分

「三浦元社長、なぜ今」、弁護士「渡米は危険」読売新聞

 一連の「ロス疑惑」の中心人物として、日本中の耳目を集めた元輸入雑貨会社社長、三浦和義容疑者(60)が、日本で無罪が確定した27年前の「一美さん銃撃事件」で、米ロサンゼルス市警に逮捕された。

 訪問先のサイパンでの突然の身柄拘束。弁護人から、「米国に行けば逮捕の恐れがある」と警告されていた三浦元社長は、慌てた様子は見せなかったという。当時、国内で捜査にあたった警視庁の元幹部らは「まだ米国は捜査を捨てていなかったのか」と驚きを隠さなかった。

 三浦元社長の弁護人を務める弘中惇一郎弁護士によると、仕事でサイパンを訪れていた三浦元社長は、空港で逮捕された。妻の良枝さんに逮捕の連絡が入ったのは22日。23日に三浦元社長と接見した。

 弘中弁護士は「アメリカ本土に行くと逮捕される恐れがある」と助言していたというが、当時の妻の一美さんがロサンゼルス市内で銃撃されて死亡した事件で2003年3月に無罪が確定した後は、何度かサイパンに渡っていたという。

 今回の逮捕容疑となったのは、一美さん銃撃事件と、銃撃の3か月前に同じく一美さんがロス市内で殴打された事件。弘中弁護士が現地からファクスで取り寄せた逮捕状は88年に発付されたもので、銃撃事件の容疑には「氏名不詳者との共謀」と書かれていた。

 三浦元社長は週明けの25日、神奈川県平塚市内で昨年4月に万引きしたとして逮捕された事件で、横浜地裁小田原支部の公判に出廷する予定だった。弘中弁護士は「日本で無罪になっているのに、アメリカで裁かれることになれば、日本の主権が侵害される。国として異議を唱えるべきだ」と話した。

 三浦元社長の逮捕のニュースに、捜査にあたった警察OBは驚きを隠さない。

 銃撃事件で三浦元社長が逮捕された88年10月当時、警視庁捜査1課長として捜査指揮をとった坂口勉さん(72)は「寝耳に水でコメントのしようがないが」と前置きしたうえで、「20年前から米国の捜査当局は有罪と考えて、『身柄を引き渡せ』と言ってきていた。本人が日本にいる限り、米国に引き渡すことはできないので、我々が捜査した。今回は米国警察の管轄が及ぶ地域に入ったので逮捕したと考えるのが自然ではないか」との見方を示した。

 また当時、捜査1課の管理官だった寺尾正大さんは、「ロス側は、日本の警察が逮捕することを了解していたが、その後無罪になったことで、乗り出す機会を探っていたのだろう」と指摘する。日米は当時、同じ証拠を共有していた。寺尾さんは「日本では無罪でも、向こうでは証拠に対する考え方が違う面もあるだろう。(米側は事件を)捨てていなかったということなのでしょう」と語った。

 ロス事件の裁判を取材し、週刊誌に「一美さん殴打事件」の傍聴記を執筆した作家の佐木隆三さん(70)は「青天の霹靂(へきれき)としか言いようがない」と絶句した。捜査は米国の警察当局とも連携して行われ、米国側は日本での裁判の経緯も十分知っているとして、「これで冤罪(えんざい)ということになれば国際問題になりかねない。最高裁で無罪判決が出た後も粘り強く捜査を続け、日本の当局が知らない証拠を握っていると見るのが自然だ」と推測する。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080223-OYT1T00874.htm