男性器などを撮影した米国の写真家、故ロバート・メイプルソープ氏の写真集がわいせつ物に当たるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第三小法廷は十九日、わいせつ性を否定し、輸入禁止を妥当とした二審東京高裁判決を破棄した。国内への持ち込みを認める判断が確定した。
裁判官五人のうち一人は反対意見を示した。
同氏の別の写真集をめぐる訴訟で、一九九九年の最高裁判決はわいせつ物と認定。この時と同じ写真が今回の写真集でも一部使われていたが、正反対の結論になった。文書や図画をわいせつと認めた二審判決を、最高裁が覆したのは初めてとみられる。
那須弘平裁判長は「現代美術の第一人者として高い評価を得た写真芸術家の主要作品の全体像を概観する写真集。問題の写真が占める比重も相当低いなど、全体的にはわいせつではない」と指摘。九九年判決との整合性は「構成も輸入禁止とされた時期も異なり、問題はない」とした。
堀籠幸男裁判官は「性器の描写に重きが置かれ、わいせつ物だ。多数意見は芸術性を重く見過ぎ、九九年判決との整合性を欠く」と反対した。
原告は東京の出版社社長浅井隆さん(52)。
判決によると、浅井さんは一九九四年、メイプルソープの写真集「MAPPLETHORPE」を国内で出版。九九年にこの写真集を持って渡米し、帰国時に再び持ち込もうとしたが、成田税関で輸入禁制品とされた。
浅井さんは輸入禁止処分取り消しと二百二十万円の国家賠償を求め提訴。東京地裁判決は既に国内で流通していることなどを挙げて処分を取り消し、七十万円の賠償を命じた。二審はわいせつと認め、原告が逆転敗訴。賠償について最高裁は高裁同様に認めなかった。
写真集はモノクロで三百八十四ページ。うち十数ページ分の内容が争われた。