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2008年02月12日(火) 00時00分

みそ煮込みうどん(愛知県岡崎市)読売新聞


みそとカツオだしの風味が利いた煮込みうどん。ネギやかまぼこを入れて色どり豊かに

 農林水産省と有識者が昨年12月、「農山漁村の郷土料理百選」を全国から選定。愛知では「ひつまぶし」と並んで「みそ煮込みうどん」が入った。この料理の要、豆みそを製造している岡崎市へ向かった。

豆みそ文化の地で生まれた
赤だしを使ったお手軽鍋

 名古屋駅から東海道線新快速に乗り、30分ほどで岡崎駅に着いた。岡崎市は名古屋の南東、旧三河国のほぼ中央に位置する。徳川家康が生まれた岡崎城が再建されており、その近くに豆みその代名詞「八丁みそ」のみそ蔵2社がある。


みそ煮込みうどんの作り方を教えてくれた鈴木由美子さん(中央)ら

 みそ煮込みうどんの作り方を教えてくれるのは、市内で仕出し屋を営む鈴木由美子さん(58)。店で豆みその販売もしており、「みそカツ、田楽、煮みそと、どんな料理とも相性バッチリ。愛知人は豆みそがないと生きていけないんですよ」と言って豪快に笑う。

 作り方は簡単だ。しょうゆの代わりに豆みそを入れた煮込みうどんと思えばいい。

 まず、カツオ節、昆布でだしをとる。戻しシイタケを使うなら、戻し汁も入れる。これに「赤だし」を溶いて、酒、砂糖で味をととのえれば汁ができあがる。

 大豆と塩、水だけで造る豆みそは赤褐色をしている。これに米みそと調味料を合わせたものが、中京圏のみそ汁によく見る赤だしだ。

 汁に砂糖を入れるのは、豆みそ特有の辛さを和らげるため。全国的に使われている米みそや合わせみそは、糖度の高い米麹によって甘みが強いが、糖度の低い大豆だけの豆みそは塩辛さを感じるというわけ。塩分濃度は米みその約13%に比べ、約11%と実は低い。

 「豆みその中でも八丁みそは味にカドがなくて好きなんです」と言う鈴木さん宅では、「まるや」の赤だしを使っている。まるやは、宮崎あおい主演のNHK連続テレビ小説『純情きらり』の舞台となったみそ蔵だ。

 八丁みその名は、岡崎城から西へ八丁(約870メートル)の距離にある八丁村(現八帖町)で造っていたことに由来し、現在も同地に立つまるやとカクキューの2社が商標登録している。まるやの開業は延元2年(1337)と古い。

 まるや営業部の岡本康志さん(52)によると、「岡崎は矢作川の舟運と旧東海道が交わる交通の要所。矢作川の伏流水、矢作大豆、さらに舟運によって塩の調達が容易で、原料に恵まれていました」。

 植物性たんぱく質、カルシウム、ビタミンB1を豊富に含む豆みその栄養や、日持ちのよさに目をつけた徳川家康が兵糧にしていたという話もある。豆みそ文化の歴史の長さが推し量れるエピソードだ。

 汁ができあがったら、具材を用意する。長ネギを斜め切りし、エノキを裂く。かまぼこ、かしわ(鶏モモ肉)、シイタケ、油揚げは適当な大きさに切っておく。

 おいしく作るコツは「うどんを硬めにゆでること」。これは後でさらに煮込むからというだけでなく、名古屋の専門店の影響が大きい。

 大正14年(1925)創業、名古屋市の山本屋総本家などでは塩を使わずに打ち、そのまま土鍋で煮る硬い麺が特徴。鈴木さんも名古屋の女子高校に通っていたころ、山本屋に足繁く通い、岡崎に戻ってからはその味を再現するように作ったという。


 「愛知にはなんでもみそで煮込む“煮みそ”文化があって、そこにうどんを入れたのが発祥かも。専門店がたくさんできて、あまり家では作らなくなったようですけど」と義妹の節子さん(53)。

 さて、土鍋に汁を張り、火をつけたら具材とうどんを入れ、卵を落とす。ふたをして数分煮込めばできあがり。

 ふたを取ると、湯気とともに豆みその香ばしいにおいがした。だしが利いた汁は確かに濃い目の味。ネギ、油揚げは汁気たっぷりで、うどんにもみその風味がよくからんでいる。早めの夕食に子供たちは大喜びで、ハフハフ、フーフー。

 卵に手を伸ばした途端、「汁が汚れるから、すくってから割るとおいしいよ」と鈴木さんから声が飛び、周りからも「そうそうそう」の声。手皿にとると半熟の黄味が割れてあふれ、褐色の汁と混ざってまろやかに。思わず「うみゃー」と言いそうになった。

(文/福崎圭介 写真/高嶋裕二)

旅行読売3月号より

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/gourmet/fudoki/20080212tb02.htm