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2008年02月05日(火) 03時44分

霊能番組ブームに懸念 悪質商法の広がり背景朝日新聞

 若い女性などに人気の「スピリチュアル」への懸念が各方面で高まっている。「霊と交信できる」というタレントの出演番組が高視聴率をとり、「ヒーリング」「パワースポット」といった特集が誌面をにぎわす。陰で、悪質な霊感商法の被害が拡大。関係者からは、スピリチュアルブームを作り出しているメディアの責任論も噴出している。

増える霊感・開運商法被害

  

 ■「倫理に反す」

 「『霊能師タレント』ありきの企画で、出演者への配慮を欠き、制作上の倫理に反する」

 フジテレビ制作の番組に先月21日、NHKと民放がつくった放送界の第三者機関「放送倫理・番組向上機構」(BPO)放送倫理検証委員会から物言いがついた。

 番組は昨年7月放送の「27時間テレビ『ハッピー筋斗雲』」。ドッキリ手法で出演させた一般人の女性に「スピリチュアルカウンセラー」の江原啓之氏が対面し、彼女の亡き父親の「声」を伝える内容だった。

 検証委の「意見」は「(江原氏の)PRに女性を利用」「『あるある問題』の教訓が生かされず、面白さ第一の演出を繰り返している」と指摘。そのうえで、「科学的根拠の乏しい題材の取り扱いに慎重さが求められる」と自制を求めた。

 「スピリチュアル」は「超自然的」「霊的」などの意味。霊視や運勢鑑定、「オーラ」などを扱う番組に対しては、メディア界の「外」からも根強い批判があった。BPOに届いた視聴者の声はこの5年で千件に及ぶ。

 昨年末に各地で強制捜査が入った「神世界」事件。ヒーリングサロンなどを窓口にした「除霊・祈祷(きとう)」商法の被害総額は100億円とも言われるが、被害対策弁護団は会見で「ここまで大規模に展開できた背景に、『霊界と交信できる』といった行為を肯定的に放送し続けたマスコミによる風潮の影響が明らか」とメディアに矛先を向けた。

 全国霊感商法対策弁護士連絡会は昨年2月、民放キー局などに「占師や霊能師が未来やオーラを断定的に述べ、出演者がそれを頭から信じて感激する番組」を是正するよう要望書を出していた。

 ■こぞって制作

 江原氏が死者のメッセージを伝えるフジテレビ系の特番「天国からの手紙」は04年以降、常に世帯視聴率が10%を超え、20%に迫ることも珍しくない。05年開始のテレビ朝日系「オーラの泉」も昨年4月にゴールデンタイムに移り、娯楽番組の視聴率上位の常連だ(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。TBS系の人気占師による人生相談番組もほぼ15%以上の高視聴率を維持、テレビ東京なども青森出身の霊能者の特番を制作している。

 他方で、各地の消費生活センターへの霊感商法の相談は最近急増傾向にある。同連絡会の紀藤正樹弁護士は「霊感商法は『癒やし』『スピリチュアル』と時々の流行語に便乗し看板を変える。メディアが敷居を低くしている」と警告する。

 ■高視聴率、批判しにくく

 放送法は放送局に番組基準の策定を義務づけており、各局が準拠する日本民間放送連盟の放送基準は、占いなどを「断定したり、無理に信じさせたりするような取り扱いはしない」としている。

 ■放送基準守れ

 「普通の感覚で見れば条文は明らかに守られていない。買収騒動の時に放送局は公共的役割を強調したが、免許で電波を使っている責任をどう考えているのか」。紀藤弁護士は語気を強める。

 BPO検証委委員でもある服部孝章・立教大教授(メディア法)も「放送基準はただの『縛り』ではなく、表現の自由のよりどころとなる放送界の憲法のはず。自ら定めたものを守れないなら国の規制強化議論をまた招くだろう」と手厳しい。

 超常現象や霊能力を扱う番組は、90年代のオウム事件や「宇宙パワーで難病を治す」中国人を紹介した日本テレビが訴えられた問題以降、各局とも自粛。だが00年以降再び目立つようになった。

 「近頃の番組は、占いや霊視を前面に出さず人生相談的要素を強くし、抵抗感を減らしている。ここまで数字(視聴率)をとっていると、局内ではなかなか批判できない」。ある局のディレクターは明かす。

 ■擁護する声も

 番組人気に乗るようにここ数年、女性誌ではしばしばスピリチュアル企画が組まれ、占いグッズなどを紹介する「すぴこん」と呼ばれる見本市も大勢の客を集めている。

 ニューエイジやオカルトブームと違い、宗教色を払拭(ふっしょく)した「オープンさ」が特徴、と精神科医で帝塚山学院大教授の香山リカさんは言う。「オーラを信じているとふつうに話す学生が増えた。救われる人がいるのに何が悪い、批判する人は非人間的でやぼ、という雰囲気が広がっている」

 BPOには「意見」公表以降、逆に江原氏と番組を擁護する声が数十件届いているという。

 ■各局「バランスに配慮」

 江原氏に取材を申し込んだところ、「BPOの意見書は重く受け止めている。今の段階で取材を受けることは差し控えたい」と回答があった。フジテレビは「真摯(しんし)に受け止めた上で、今後社内で勉強会などを行う」。他の類似番組については「従前より霊的な存在や占いの喧伝(けんでん)とならないよう十分留意している」。

 その他のキー局も、現行番組に問題はないとの認識。「民放連の放送基準にのっとって制作にあたっている」(日本テレビ)、「社内で横断的に協議し、趣旨が一方的にならないよう慎重に制作している」(TBS)、「放送基準にのっとって制作している。守護霊、オーラなどのカウンセリングについて、肯定的にも否定的にも扱っていない」(テレビ朝日)、「霊能者の言葉が視聴者に不利益を与えないよう注意している」(テレビ東京)としている。

 ■メディアに責任 回答の半数近く アスパラアンケート

 スピリチュアルの問題について先月末、朝日新聞の無料会員サービス「アスパラクラブ」の会員にアンケートした。

 最近の霊感商法問題については、回答者の半数近くが「メディアに責任がある」と答えた。続く「最も責任の重いのは」との問いには、テレビ90.7%、雑誌4.6%、新聞2.8%と続いた。

 自由回答では、「影響力を考えていない」「視聴率主義」といったテレビ批判が大半。BPOに対して「勧告を出すなどもっと厳しく各局に対応すべきだ」(30代男性)という意見も多数あった。一方、「江原さんらの説く『心磨き』は間違ってない」(30代女性)、「視聴者が選択すればよい」(40代男性)などの意見も多かった。

 ■民放連の放送基準(抜粋)(カッコ内は解説文)■

第7章 宗教

(41)宗教を取り上げる際は、客観的事実を無視したり科学を否定する内容にならないよう留意する

第8章 表現上の配慮

(53)迷信は肯定的に取り扱わない

(54)占い、運勢判断およびこれに類するものは、断定したり、無理に信じさせたりするような取り扱いはしない(現代人の良識から見て非科学的な迷信や、これに類する人相、手相、骨相、印相、家相、墓相、風水、運命・運勢鑑定、霊感、霊能等を取り上げる場合は、これを肯定的に取り扱わない) アサヒ・コムトップへ

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