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2008年02月03日(日) 18時25分

「きょう収入がなければ生きて行けない」オーマイニュース

 「自殺者が出ないうちに早急になんとかしてほしい」

 大手人材派遣会社グッドウィルに登録している女性は声高に訴えた。1月18日から最大4カ月、同社が事業停止命令を受けたことによって失業した派遣労働者の生活破綻を救済するための交渉が1月31日、参議院議員会館で行われた。

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 グッドウィルに登録している派遣労働者が加入している労働組合グッドウィルユニオン(梶屋大輔委員長)と派遣労働者が加入している労働組合・派遣ユニオン(設楽清嗣執行委員長)が、監督官庁である厚生労働省に対して事前に「日雇い派遣問題に関する要請書」を提出し、同省との間で意見交換を行ったもの。

 交渉は昨年3月から行われており、要請書はその都度提出している。5回目となる今回は、事業停止処分となったグッドウィルの登録派遣社員を救済するための措置を、緊急を要する課題として掲げた。

◆日雇い雇用保険による救済を求める労組

 ユニオンでは、失業した日雇い派遣労働者を「日雇い雇用保険」に遡及加入させて「あぶれ手当」が受給できるよう要請していたが、これに対して厚労省は15日付けで「日雇雇用保険の遡及加入はしない」と回答していた。

 厚労省は「日々異なる仕事に就労し、賃金も日々支払われるという就労実態の特殊性から遡って確認することは困難。(日雇い雇用保険の被保険者用に発行される白手帳に)遡って確認し、印紙貼付することは不適正な受給となることが予想される。複数の派遣業者に登録している例もある」として、本来の日雇い労働者とを明確に区別する方針を示した。

 日雇い雇用保険とは、2カ月間に合計26日以上勤務すると、その翌月の仕事に就けなかった日(あぶれた日)に「あぶれ手当て」(4100〜7500円)が給付されるという制度だ。従来、東京・山谷や大阪・釜が崎など不安定な就業状態にある日雇い労働者を救済する目的で制度化されたもので、昨年9月に日雇い派遣労働者にも適用されるようになった。

◆日雇い雇用保険を知らせていなかった厚労省

 日雇い雇用保険は、該当者である個人がハローワークに申請した後、審査を受け認定されてはじめて被保険者扱いとなる。日雇い雇用保険を昨年9月に派遣労働者への適用を開始した段階で、厚労省は該当すると思われる派遣労働者に対して通知は行っていない。グッドウィルに登録して過去に日雇い派遣の仕事をしていた私も、日雇い雇用保険の存在は知らなかった。

 ワーキングプアが社会問題ともなっている中、日雇い雇用保険の存在自体を知らされていない派遣労働者が大半であることを承知しながら、周知活動を行わなかった行政の責任を、ユニオンは追及した。

 また厚労省は、事業停止命令によってそこで働く日雇い派遣労働者が失業し、生活困窮者や生活保護が必要な事態になると予測できながら、日雇い雇用保険の適用を受けていないグッド社を放置したまま事業停止命令を出している点でもその姿勢が問われた。

 同席した30代の女性派遣社員はこう訴え、グッド社とともに厚労省の責任についても質した。

 「私は屋根のあるところに住んでいるが、ネットカフェ難民となっている人は今日収入がなければ生きていけない。事業停止する前に日雇い雇用保険に入れ、という指導をするべきだ。そうでないと、ホームレスになってしまう」

 周知の必要性について厚労省では、全体の経過を踏まえた上で今後、対応を考えたいと回答するに止めた。

◆日雇い派遣労働者の生活向上を目指して

 派遣労働者が日雇い雇用保険の適用を受けるためには、最寄のハローワークに個別に申請する必要がある。日雇い雇用派遣の適用を受けている大手派遣業者フルキャスト渋谷支店の登録派遣社員が昨年11月、ハローワークに申請した結果、交付されたのは今年1月23日だ。今日生きるために日雇い雇用保険を申請する実態が考慮される現状にはない。

 また厚労省は昨年11月の時点で、事業者が日雇い雇用保険の適用申請すれば1週間以内に交付すると明言している。しかし、実際には派遣業者マイワーク渋谷支店がハローワークに申請すると2〜3カ月かかるとの対応が示されたという。「ハードルを上げて日雇い雇用保険を活用させる意志がない」と指摘されても仕方のない現状が露呈された格好だ。

 日雇い雇用被保険者があぶれ認定を受ける方法として、失業状態を証明する資料として事業者が発行する不成立証明書の提出を義務つけている。

 前日の深夜まで仕事をしている派遣社員が、終了後に明日の仕事がないと通告された時点で、通常19〜20時の定時に業務を終了する登録事業所に不成立証明書の発行を申請して取りに行くのは物理的に不可能だ。厚労省では、労働基準法の記載事項を繰り返し述べる原則論に終始し、今後証明書の提出が不可能な事例を検討しながら対応する意向を示しただけだ。

 事業停止により大量の失業者が発生することへの対応については、1月11日付けで、各労働局に対して、派遣労働者に対する個別の相談に応じる体制を整えるよう指示。具体的には1月15日から相談に応じてハローワーク等を紹介するなどの雇用対策を行っており、ホームページ上での告知を実施している。

 日雇い派遣の規制については、派遣業者ごとのマージン率の公開は規定の中で義務付けられているが、派遣社員個別の賃金(マージン率)は公開されていない現状が指摘された。公開することで市場原理が働き不正な業者が淘汰されるとの提言がだされた。

 通常国会での派遣法の改正問題を先送りにして、どこまで実効性があるか分からない指導の強化だけで乗り切ろうとしている厚労省に対してユニオンでは、粘り強い交渉を通して、ネット難民に代表される日雇い派遣労働者の生活向上を標榜している。

◆グッドウィル失業ホットラインを設置

 派遣ユニオンではグッド社の事業停止に伴い、日雇い派遣労働者の相談を受け付けるため、1月18〜24日(各12〜19時)の7日間「グッドウィル失業ホットライン」を設置した。相談件数は55件(男48人、女6人、不明1人)。うちグッド社以外の日雇い派遣会社に関する相談が6件あった。主な事例は次のとおり。

 [兵庫県・男性]週3〜4日、グッドウィルのスポット派遣で働いていたが、業務停止に伴い18日から仕事がストップするといわれた。他の会社にも登録しているが、なかなか仕事が見つからない。無収入の母親と月12〜13万円程度のスポット派遣の収入のみで暮らしているが、生活に困ってしまう。

 [千葉県・男性]グッドウィルの事業停止で仕事がなくなるので、他の派遣会社で仕事を決めた。ところが月給制なので1カ月先まで賃金がもらえず、それまでの生活費がない。

 [男性]1 年半くらい前からほぼ毎日グッドウィルでのレギュラーやスポットで働いてきたが、事業停止の影響で1月から仕事がなくなり、今後は仕事を紹介できないといわれた。他の派遣会社にも登録しているが年齢(59歳)でハネられてしまう。妻が他界し一人暮らしだが、生活に困ってしまう。

 [三重県・男性]12月26日を最後に仕事が回ってこない。収入が閉ざされるが、何か保障はないか。

 [東京都・男性]レギュラーで入っていたが仕事が1月いっぱいで切れてしまう。派遣先では長期で働いてほしいといわれた。4カ月同じ派遣先で働いていて、派遣前に「顔合わせ」があり、2人のうち私が選ばれた。

 [岡山県・女性]日雇い派遣で働いているとき、嫌がらせで突然派遣先から「お金は払いません」「サインもしません」といわれた。違う現場でも同じようなことをいわれた。日雇い派遣スタッフは、犬のように扱われていると感じる。

 ◆派遣ユニオン連絡先
 東京都新宿区西新宿4−16−13 MKビル2F
 電話:03−5371−8808

(記者:辛島 武雄)

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