中国製の冷凍ギョーザを食べて中毒症状に陥った兵庫県高砂市の一家3人は、救急搬送先の病院が早い段階で薬物中毒と見抜き、初期治療に当たったことで辛うじて一命をとりとめていた。
「もう、あかんのかと思った」。家族だんらんの夕食から一転、死の恐怖にさらされた3人は発症から約1か月を経た今も体の不調が続き、「後遺症が残るのでは」と不安な日々を過ごす。関係者の証言から、一家を襲った“悪夢”を再現した。
中毒症状を起こしたのは造園業の男性(51)と妻(47)、高校3年の二男(18)。
1月5日の夕食は午後6時45分ごろに始まった。二男は冬休みを終え、翌日に留学先へ向かう予定で、大好物のギョーザをリクエスト。「中華deごちそう ひとくち餃子(ギョーザ)」が食卓に上った。
「なんか苦いな」。二男は少し気になったが、「ハーブ入りだから」と思い直し、11個を一気に食べた。途端、激しいめまいが襲った。床にへたり込み、立て続けに3度嘔吐(おうと)すると、今度は体がガタガタ震え、鼻水と涙が止まらなくなった。
「これはやばい、死ぬかもしれない」。苦しくて言葉にはできないまま、二男は救急車で高砂市民病院に運ばれ、間もなく意識を失った。付き添った男性の妻も、病院に着くなり気分が悪くなってトイレに駆け込み、そのまま倒れた。ギョーザを1個、口にしていた。
自宅に残った男性も、3個食べていた。やはり全身の震えと鼻水、涙が止まらない症状が起き、親類の車で市民病院へ向かった。
隣のベッドから、二男のうめき声が絶え間なく聞こえる。「あいつ、もうあかんのかな」。じりじりするうち、男性も意識が遠のいた。院内では親類が病院側から「危険な状態なので、身内の人たちを呼んでほしい」と告げられていた。
市民病院は午後7時10分、救急隊から、二男の症状について「食中毒の疑い」と連絡を受けた。しかし、当直医らは「極めて短時間で発症しており、意識もはっきりしない。薬物中毒ではないか」と疑い、直ちに胃洗浄を行って解毒剤を投与。男性と妻についても同様の処置を取った。この時点で、原因はまだ明らかではなかったが、結果的に医師らの素早い判断が3人の命を救うことになる。
翌6日朝には、県加古川健康福祉事務所も職員2人を派遣した。病室で男性と面会した職員の1人は「長年、多くの食中毒患者に接してきたが、初めて見る状態で、食中毒とは違うと直感した」と証言した。
男性と二男の胃洗浄液からはその後、県警の鑑定で有機リン系殺虫剤の一種、メタミドホスが検出された。
市民病院は「二男には生命の危険があった。有機リン系の薬物中毒と判断して初期治療を行ったのは賢明だった」としている。
男性と二男の意識が完全に回復したのは、入院から2日後。3人の入院は11〜21日間に及んだ。
男性は今も頭がふらふらし、唾液(だえき)の量が増えた気がする。妻と二男も腕などにしびれを感じるという。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080202-OYT1T00392.htm