死に至る恐れのある薬物が親しみのあるギョーザから検出されるという衝撃は三十日、各地に瞬く間に広がった。
日本生活協同組合連合会(日本生協連、渋谷区)本部には事件発覚を受け、報道各社が集まった。広報グループによると、生協連は自社生産設備を持たないため、コープブランドで販売する商品はほぼすべて外部業者に製造を依頼。その上で各生協に対して卸しているという。担当者は「責任者がいないので対応できない。なぜ事件の公表が遅くなったかも現時点では不明だ」と話した。
一家五人が中毒を起こした殺虫剤入りの中国製冷凍ギョーザを販売した千葉県市川市のコープ市川店前には大勢の報道陣が詰め掛けた。
近くの主婦(51)は「野菜など中国産は買わないようにしていたが、加工品は注意して見ないと分からない。政府は輸入品の検査をきちんとしてほしい」と憤った。船橋市の主婦(57)は「生協なら安心だと思っていたのに」と驚く。「中国産が混入していると怖い。もう手作り料理しか食べられない」
市川市の会社員女性(26)は「働いているので出来合いのものを買うことも多い。何も知らずに食べさせられる子どもがかわいそう」と話した。さいたま市南区のコープ武蔵浦和店では同日夕、夕飯の買い物をする客らが多数訪れていた。同店では「商品はすべて回収した。これ以上、店では対応できない」と繰り返した。客の男性(63)は「冷凍食品はしょっちゅう食べている。輸入だと検査も難しいのだろう。気を付けなければ」。主婦(51)は「中国製品はできるだけ買わないようにしていますが、安いと買ってしまう。子どもが小さいので不安です」。
一方、“ギョーザの街”として知られる宇都宮市の「宇都宮餃子会」の伊藤信夫代表理事(74)は「安い中国製冷凍ギョーザがあるのは知っていたが、農薬が入っているなんて聞いたことがない」と驚いた。同会の加盟店では、過去に中国産ショウガやニンニクを使っていた店はあったが、中国産の食料品の安全性が懸念され二年ほど前に使用を中止。現在は国産の素材しか使っていないという。伊藤代表理事は「輸入業者の不注意で風評被害が起き、人気が下がってしまうのが心配だ」と声を落とした。
大手スーパー「イトーヨーカドー」の広報担当者によると、全国百七十九店のうち計百十一店で、回収対象商品の「中華deごちそう ひとくち餃子」を取り扱っていた。警察から三十日、連絡があり、各店舗に回収の指示を出し、午後五時ごろまでには店頭からの撤去を終えたという。
イトーヨーカドー拝島店(東京都昭島市)でも、該当商品を販売。同店によると、同日午後、買い物客からの問い合わせで気付いたという。同商品に限定せず、ジェイティフーズの全冷凍食品を撤去。売り場には同商品を販売していたことを明らかにし、購入した場合は「絶対に食べないように」とする張り紙を出した。
これまでに約十五人から「購入した」との連絡があり、現金を返金して対応。同店の副店長(42)は「販売側もすぐに対応しないと信用問題にかかわる。お客さまを安心させることが第一」と話した。
■加工品も検査必要
本山直樹・千葉大大学院教授(農薬毒性学)の話 メタミドホスは非常に毒性が強く、野菜に残留する性質がある。中国では使用基準があるが、農家によって守られていないのが実態だ。輸入野菜の場合、日本の商社が農家と契約栽培し、残留農薬を二重三重に検査している。だが、今回のような加工食品では、原材料の野菜の検査がそこまで入念に行われていなかっただろう。今後は原材料の品質をきちんと検査する必要がある。
(東京新聞)