射撃場がにぎわい、銃保管庫メーカーはフル生産——。長崎県佐世保市の散弾銃乱射事件などを受け、警察による銃の一斉点検が本格化するなかで「対策」と見られる動きが広がっている。一方で、実弾の「落とし物」の多さは相変わらず。すべての合法銃を対象にした初の「全丁調査」を前に、これまでの管理のありようが思わぬ形で浮かび上がった。
銃保管の専用ロッカー。3カ所の鍵や丁番が切断されてもドアがはずれないなど、厳しい基準でつくられている=東京都内で
埼玉県吉見町の百穴射撃場では、正月休みが明けた途端、利用者が増えた。狩猟期の今ごろは例年なら1日の利用者は20人程度。しかし、今年は平日で約40人、週末には約60人が詰めかける。
「全丁調査の対策」と射撃場側はみている。銃の所持許可は3年ごとの更新。この間一度も使用していない銃は「眠り銃」と呼ばれ、警察から譲渡や放棄の指導を受ける。しかし、射撃場を利用すると銃と弾の数が記載された「採点カード」が渡され、使用の証明として提出できる。「例年は国体や五輪を目指す常連さんばかりだが、今年は普段見かけない高齢者が多い」と従業員は話す。
銃と弾の保管庫の注文は引きも切らない。
群馬県伊勢崎市のメーカー「関東スチール」では、昨年12月下旬から注文が急増した。例年は注文が少ない時期だが、1月下旬にかけ、銃用が約200台、弾用が約600台にのぼった。児玉郁夫社長(54)は「注文してくる銃砲店には、納期は早くて2月と説明している」。フル稼働しても生産が追いつかないという。
長野市の「光葉スチール」は昨年12月に保管庫の在庫が尽きた。新年度を控え、学校用ロッカーの製造に追われ、注文に応じられない状況だ。
警視庁の担当者は「これまでは写真の提出で済ませていたため、知人などの保管庫の写真を出されても見抜けない場合があった」。全丁調査では警察署員が所持者の家を訪ねて保管状況を調べることにしており、保管庫を持たない人の駆け込み購入が多いようだ。
銃砲店には「所持をやめたい」との相談や銃の保管依頼が増えている。全丁調査では、銃所持者の身辺調査のため、署員が近隣住民らに聞き込みをするが、これを嫌った動きとみられる。
東京都千代田区の銃砲店は1月、約10人から所持のやめ方の相談を受けた。「佐世保の事件以降、銃を持つだけで犯罪者扱い」「近所の人に怖いと思われたくない」と漏らしているという。
銃の保管の依頼や相談はこれまでほとんどなかったが、今は1日に約10件。「保管スペースの関係もあり、事情がない人からの保管依頼は断っている」と社長は話す。
実弾の所持には公安委員会の許可が必要で、施錠された堅固な設備に収納するなどの保管義務があるのに、実弾を落としたまま、引き取りに来ない例は絶えない。
昨年12月23日、富山市内の路上で散弾銃用の実弾が見つかった。富山県警は、昨年12月の改正遺失物法施行を受け、ホームページで「落とし物」として公開。しかし、「所持禁止物品」とあって他人が持ち主と偽るのを防ぐために詳細を公開できず、持ち主の特定には至りそうもない。県警の担当者は「銃の適切な管理を促している時期なのに」と、銃や実弾への対応の難しさを打ち明ける。 アサヒ・コムトップへ
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