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2008年01月24日(木) 13時31分

サブプライムローンは米国流「下流食いビジネス」MONEYzine

■サブプライムローンの影響はなぜこんなにも大きいのか

「サブプライム損失、欧米10兆円超す」
「シティ2兆5000億円」

 こんな見出しが、新年1月16日の日経新聞のトップを飾った。シティグループのほかにも、メリルリンチ、UBS、モルガン・スタンレー、HSBC、ドイツ銀行など、欧米の名だたる金融機関がサブプライムローンで大きな損失を被っている。

 そのために、せっかく軌道に乗りつつあった日本経済も大きな影響を受けて、マーケットは大きく下落した。米国の低所得者向け住宅ローンといわれるこの制度が、なぜこれほど世界経済に影響を及ぼすのだろうか。

 サブプライムローンとは、サブ(補助的)プライム(優良顧客ための)ローン(貸付)で、本来なら与信が低くてローンを組めない人たち向けの制度なのだ。

 通常なら「サブ」とは「補助的」とか「補完的」を意味するが、サブプライムの場合は「本流ではない」「本物ではない」という意味で使われている。よく「サブカルチャー」などというと、どこか「怪しげな」意味が込められるが、サブプライムローンの場合もそれに近いのである。

 ここ数年、米国経済は住宅購入促進政策による需要で好景気を保ってきたが、その背景には中南米からの移民や黒人、ヒスパニックなど、米国社会の下層を形成するマイノリティがいた。

 彼らは、銀行口座を持たないなど、通常の住宅ローンの申請手続きを満たすことができないために、米国政府は、特別にマイノリティ向けの「ユルめ」のローンを作ったわけだ。

 本来なら、自分の家を持つという夢が叶ってハッピーになるところだが、そう簡単にはいかなかった。悪徳金融機関が、低所得者の収入では返済できないような支払条件でローンを組ませていったのだ。日本でいう「ステップ返済」という制度で、ローンを組んだ当初の数年は、据置期間として返済金額を低くして、据置後に返済金額が大幅に上がるという制度である。

 例えば、年収400万円の人が2000万円の中古住宅を30年ローンで購入したとする。当初の据置期間は、年間の返済金額が120万円程度(金利6%)ですむが、据置期間終了後は、なんと金利だけで年間220万円の金額になってしまう。実に年収の55%にもあたる金額では、返済不能、破綻するしかなくなるわけだ。中には月収15万円の人に、返済額22万円のローンを組ませていたという、信じられないケースもあるという。

 日本でも、バブル崩壊時にこの制度で破綻したサラリーマンが多く出たが、米国ではそれ以上の悪徳商法の手口だったのだ。

■“規制緩和”大国は、まさに“貧困”大国だった

 では、なぜこんな無茶苦茶な制度が採用されたのだろうか。実は、サブプライムローンは金融機関によって、新たに債券(証券)化して転売されるのである。サブプライムローンをひとつの高利な債券として、世界のマーケットで売りに出されるわけだ。当然、国債や社債などの優良な債券と異なり、信用度は低いのでリスクは高くなり、当然金利(リターン)も高く設定される。

 この債券に、少しでも効果的な運用先を模索していた、世界中の大手金融機関が群がったわけだ。おそらく債券を購入した金融機関は、サブプライムローンの末端で、どのようなことが行われていたかはわかっていなかっただろう。

 そのうえ米国では、顧客と金融機関を仲介する業者(ブローカー)も介在して、手数料稼ぎにデタラメな説明をして、売りさばいているケースもあった。実質の金利を低く見積もったり、顧客に都合の悪い条項を隠して契約させたり、まるで詐欺まがいの業者も多く、被害は広がるばかりなのだ。

■アリ地獄にはまって破綻

 一方、顧客のほうも最初から返済できないことがわかっていて、ローンを組むケースもある。住宅購入後に値上がりすれば、担保価値が上がり、その分再度借入をして現金が手に入る。また、家を持っていれば、自動車ローンなど他の貸付制度も利用しやすくなるからだ。

 そのまま自制心なく各ローンで借り続ければ、ますます借金がふくらみ続けるという、アリ地獄にはまって破綻してしまう。

 米国の農務省のデータ(07年11月)によると、人口約3億人のうち、3500万人(12%)が「飢餓人口」で、次にいつ食べ物にありつけるかわからない状態だという。ホームレス人口は350万人で、実に国民の100人に1人以上が路上生活をおくっていることになる。

 そのうえ、民営化されている医療保険の保険料が高いので、加入できない人が4700万人(16%)にも上り、盲腸の手術をすると、なんと130万円もかかるという。

 前回は日本の下流食いビジネスを紹介したが、米国でも下流は搾り取られる運命にあるようだ。

■正社員も格安の「労働奴隷」の時代へ

 こんないい加減な金融システムが世界経済を支えていたとは信じがたいが、実際には日本にも大きな影響が出始めている。マーケットは新年明け以来、2週間余りで2734円(−18%)も下落して、景気の先行きに暗雲が立ちこめている。これから徐々に、雇用や物価などにも悪影響を及ぼしそうだ。

 早速、大手小売業のユニーは2009年4月入社の新入社員から新卒採用数を約2割減らすと発表した。スーパー業界は価格競争が激しいうえ、景気の先行きに不透明さが増しているために、人件費を抑制するという方針だ。

 以前私は過去のような記事で格差問題について述べてきた。

絶望的“富のかすめ取り”社会の到来
現代における「天国」と「地獄」 到来した格差社会
貧困スパイラルと下流食いビジネス

 サブプライム問題がますます深刻になる中で、合わせて、日本国内では格差がますます広がっているのが現実だ。最近の調査では、年収200万円以内で生活する人が、ついに1000万人を突破したという。

 これは、1985年以来21年ぶりだが、今後増税や社会保険の削減など、さらなる“弱者狙い撃ち”政治による“下流食い”政策が実施されるので、近い将来、大貧困時代に突入することが予想される。

 現在ワーキングプアたちが何とか生きのびられているのは、実家で生活して、家賃や食費の負担が少ないからだが、今後両親が年老いて働けなくなったり、亡くなったりしたら、彼らはホームレスになる確率が非常に高いといえる。

 ワーキングプアとホームレスの境界線は、携帯電話と住所、そして親を含めた頼れる人がいるかどうかなのだ。携帯電話はどんな仕事でも請ける際の必需品。これがなければ仕事さえ回ってこない。携帯電話を持つには、きちんとした住所、つまり住みかを必要とする。親元から通っていれば、取りあえず寝床には困らないし、泊めてくれる友人がいれば、いざというとき心強い。生活資金に困ったときでも、一時的に借りることもできる。この“三種の神器”がなければ、それこそ会社を辞めて、数週間でホームレスになることもある。

 状況が厳しくなるのは、派遣社員や契約社員ばかりではない。国内外で競争が激しくなれば、当然正規の社員にも大きなしわ寄せがやってくる。ある大手美容室チェーンでは、顧客獲得のために朝8時から夜11時まで、駅前でビラ配りをさせられて、椎間板ヘルニアになってしまった正社員もいる。その会社ではタイムカードも残業代もなく、正規の給与から「教育費」や「共済費」など使途不明の項目が天引きされていたという。

 もはやここまで来ると、格安の「労働奴隷」としかいいようのない状況である。ひと昔前なら、労働組合が労働者の権利を守ってくれたが、最近では組合がない会社も多く、企業側のやりたい放題になっている。

■「ゆとり教育」がワーキングプアをますますひどくする

 いまの若者たちは、法律破りの港湾労働や建設現場の過酷な3K(「きつい」「汚い」「危険」)の仕事にも、何の疑問も持たず、もくもくと働くという。また、生活保護世帯より劣悪な生活状況でも、公的制度を活用しないし、知ろうともしない。

 なぜなら、彼らは、自分たちの立場に疑問持つことができないように教育されてきたからだ。90年代より導入された「ゆとり教育」によって、自分で考えたり、調べたりすることができなくなった。

 周りの人からいわれたことに対して、何の疑問も持たず、また疑問が生じても考えたり、調べたりして、自分なりの答えを見つける方法がわからないので、相手の言いなりになってしまう。

 つまり、経済格差は知力格差にまで及んでいたのだ。詰め込み教育を廃した「ゆとり教育」は、若者から学力も奪い、知力も奪い、生きる力も奪いつつある。この政策を先頭に立って推進した寺脇研氏(元文部省審議官)は、
「ゆとり教育は失敗でない」
「ゆとり教育が問題で見直しをしていた時、当時、文部省の上で決めたことをスポークスマンとして発言していただけで、私は悪くない」
と開き直っている。

 だが、彼が広島県の教育長だった時代には、恐るべき現象が起こっている。寺脇氏は1993年から1996年までちょうど4年間、広島県教育委員会の教育長を務めているが、実は彼の地で、全国に先駆けて「ゆとり教育」を実践しているのだ。その際、全国でも中位(20位前後)だった同県の高校生の学力(大学入試センター試験の成績)が、40位近くに大きく落ち込んでしまった。

 そのうえ、寺脇氏の教育長退任後の1998年には、刑法犯少年の都道府県別少年人口比が、大阪に次ぐワースト2位になり、補導・摘発総数の人口比指数も同じく大阪についでワースト2位になってしまう。これがゆとり教育の結果だとわかっていて、全国に導入した寺脇氏の責任は重い。

■“下流食い”ビジネスは古今東西、絶滅することなし

 ゆとり教育を受けて思考能力の劣った若者たちは、自ら考えようとせず、その場の雰囲気やイメージだけで判断しようとする。小泉劇場政治によって、いろいろな弱者を保護する規制がはずされて、弱肉強食のシステムを作り出すきっかけになったのも、彼らの影響が大きいだろう。自ら、自分の首を絞めたといえるかもしれない。

 いまさら後悔しても始まらないが、ひとついえることは、国も企業も、弱いところから順番に搾取していくということだ。抵抗力がない弱者が狙い打ちされて、国による切り捨て政策と、企業による使い捨て労働が、ますます厳しくなるだろう。

 最近では、“日本版”サブプライムローンも出始めている。グレーゾーン金利の是正措置以降、収入の悪化した悪徳金融業者が、新手の不動産担保ローンを考案した。

 これまで無担保で高金利のローンが収益の中心だったが、不動産を担保にして低金利ローンを組ませるものだ。不動産価格が回復してきたので、確実に貸付金が回収できるという目論見だろう。

 米国のように、不動産担保ローンを証券化して、再度利益を生み出すシステムも構築している。2001年に発覚したエンロンやワールドコムの不正会計問題は、日本にも飛び火して、ライブドア事件や村上ファンド事件などを起こした。その際の最大の被害者は、個人投資家だったわけだが、今回も必ず同様の被害者が出ることが予想できる。

 良くも悪くも、米国で起きたことは必ず日本でも起きるという経験則があるからこそ、弱い立場の人は特に注意しなければいけない。

 弱い者の生き血を吸って繁殖する“下流食い”ビジネスは、古今東西、絶滅することはないのだから。


(橘 尚人)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080124-00000000-sh_mon-bus_all