自給自足の寮生活による「個性的な人づくり」「偏差値教育からの脱却」を掲げ、1993年に山梨県北杜市に開校した私立自然学園高校が存続の危機に直面している。全寮制のはずだったが、寮で暮らす生徒は昨年5月末から1人になってしまった。3年前から通信制を設け、今年度からは通学もできるようにした。だが、思うように生徒は集まっていない。
生徒の減少で現在は使われていない自然学園高校の女子寮=山梨県北杜市須玉町小尾で
自然学園高校の校舎(手前)と二つの寮。男子生徒が1人だけのため、女子寮は閉鎖されている=山梨県北杜市須玉町小尾で
自然学園高校は長野との県境に近い標高1100メートルの山間にある。校舎から山道を5分ほど歩いたところにある寮の一日は、午前6時半過ぎ、西条隆繁理事長(76)と一緒に外でのラジオ体操が日課だ。新年は8日から始まり、氷点下の日が続く。零下9度の日もあったが、それは変わらない。洗濯は手洗いで、風呂はまきでたく。テレビはなく自給自足の田畑にヤギが2頭いる。
寮で一人で暮らすのは東京都葛飾区出身の男子生徒(15)。今年度の新入生だ。1泊2日の入試では学科試験のほか、農作業やトイレ掃除も試された。昨春は5人が受験し、2人が合格したが、もう1人は5月末に通信制に移り、9月末に別の高校に転校した。
寮に残る生徒が入学したきっかけは「勉強以外の色々なことを教えてくれる」と父親に勧められたからだった。「何もない生活と寂しさ」で、入学当初は毎日のように実家に電話をしていた。それでも「読書をしたり、ヤギの世話をしたり、東京ではできない生活がおくれるので、成長できる気がする」と話す。
西条理事長は旧国鉄でリニアモーターカーの研究に携わった後、芝浦工業大学教授に転身。大学を辞め、私財3億円を投じて93年春に開校した。初年度は23人が入学。北海道や沖縄からも集まり、ピーク時の96年度には77人(定員84人)まで増えた。その後は減少する一方だ。
そこで05年度、神奈川や静岡などにある学習センターと提携して通信制を新設、現在111人が所属する。さらに今年度、通学制を新設した。通信制の生徒が、本校か各地の学習センターに来るのは年に10日ほど。5人が在籍する通学制の生徒も本校に通って来るのは週に2、3日という。
常勤の教員は「常に6人前後いる」とし、非常勤教員はピーク時より2人少ない6人という。西条理事長も週に1回は教壇に立ち、「人間学」を教えている。
私学助成金は毎年5月現在の生徒数で計算されるため、今年度は1人分の118万円だった。通信制や通学制のほか、高卒者らを対象にした介護福祉専攻科の収益でまかなっているという。
生徒の減少について、学校側は「農作業ばかりすると勘違いする人が多い。実際には学科の勉強もしている。宣伝ができていないのが原因だ」と説明する。
このほか、運営をめぐるトラブルも影響しているという声がある。関係者によると、97年には、自主退学した生徒が「教育方法」を巡って提訴(01年に和解)。00年には、転校に必要な書類送付を意図的に遅らせたとして、県が管理運営体制を見直すよう指導した。
西条理事長は「理念を変えるつもりはない」とし、来年度も募集を続けている。見学者はいるものの、22日現在、出願者はいないという。
山梨県私学文書課は「寮に1人だけという事態は望ましくないが、今は学校側の対応を見守りたい」と話している。 アサヒ・コムトップへ
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