2008年01月19日(土) 22時56分
飲食、モノ、金…常套手段で職員籠絡 内調情報漏洩(産経新聞)
内閣情報調査室の男性職員(52)=懲戒免職=による在日ロシア大使館の2等書記官(38)への内政情報漏洩(ろうえい)事件で、男性職員は「飲食代」「贈り物」「現金」の順で対価を引き上げられ、協力者に仕立てられていたことが19日、警視庁公安部の調べで分かった。歴代の大使館員らに引き継がれ、「スパイの常套(じょうとう)手段」(警視庁幹部)に籠絡(ろうらく)された形だ。「足元で問題が起きた」。福田康夫首相はこう不快感をあらわにした。首相に直接、情報を上げる内閣中枢がターゲットにされていたことに危機感を募らせる関係者は多い。
■競馬代に充当
「金の魅力で足を抜けられなかった」
男性職員は週末を中心にほぼ月1回のペースで書記官らと会い、10万円程度を受け取る見返りに資料を手渡していた。受け取った現金の総額は約400万円。接触場所は焼き肉店やすし屋、居酒屋と転々とさせた。
職員が最初のロシア大使館員と知り合ったのは10年前。当初は飲食代を支払ってもらうだけだったが、次第に酒類などの贈答品を受け取るように。「どんな反応で受け取るかが重要で、後ろめたさが残っているか、気にしなくなったかを情報員は見極める」(公安部幹部)
数年前、物品は現金にかわり、職員は競馬や飲食費に充てた。そのころまでは情報を提供していなかったが、負い目を感じ、飲食の席などで自ら資料を手渡すようになったとされる。
ロシアのスパイは、すれ違う瞬間に資料を手渡す手法を使う一方、飲食店での資料受け渡しも併用する。
職員には、少なくとも大使館員ら3人が接触しており、書記官の前任者も現金を渡していたとみられる。書記官が知り合ってすぐに現金を渡しており、公安部は職員が代々担当者で引き継がれ、ロシアスパイの典型的手口で籠絡されたとみている。
公安部では男性職員を国家公務員法(守秘義務)違反容疑で書類送検する方針で、贈収賄容疑での立件の可否も検察当局と協議している。
■中国情報も狙い?
警察庁によると、日本国内では戦後、旧ソ連とロシアの情報員による諜報(ちょうほう)事件は十数件検挙されている。男性職員に接触した大使館員らは、ロシア軍の諜報機関「軍参謀本部情報総局(GRU)」所属の情報員とみられる。「(書記官は)たびたび背後を振り返って尾行がついていないか確認する『点検』を行っていた」(公安関係者)
ロシアは旧KGB(国家保安委員会)出身のプーチン政権の下、諜報機関を強化。ここ数年、日本でも諜報活動を活発化させ、「内政情報のほか、日米の軍事動向、先端科学技術に触手を伸ばしている」(警視庁幹部)とされる。
男性職員は中国情報の専門家で、機密性の高い画像情報を扱う「内閣衛星情報センター」にも所属していた。書記官らは日本が収集した中国関連情報や衛星情報の提供を働きかけていた疑いもある。男性職員は「要求された情報は出していない」と話している。
■友好国の信頼失う?
公安部や内調によると、書記官らは男性職員を“即戦力”ではなく、重要ポストに就くまで協力者として確保しておく「スリーパー」と位置づけていたとみられている。内調トップの内閣情報官は週1回、首相に国内外の情勢報告を行うため、外交上、ロシアに有利になるよう、日本政府中枢にディスインフォメーション(故意の偽情報)を流す起点にしようとした可能性もある。
内調は「秘密指定の情報漏洩はなかった」と弁明する。しかし、元内調室長の大森義夫氏は「内調に協力者をつくられたこと自体が問題だ」と指摘。内調は米中央情報局(CIA)など友好国の情報機関と情報交換もしており、事件が「友好国の信頼を損なう」との見方もある。
大森氏は「(内調の協力者獲得は)ロシアにとって勲章で、男性職員にロシア語のコードネームもつけていたはず。発覚しなければ自在に情報を引き出したり、偽情報を流したりしたかもしれず、われわれOBも含め猛省すべきだ」と話している。
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