養殖場にいたのはエビではなく魚。宣伝の20分の1程度の広さで、事業許可を得て運営した約1年間の売り上げは約2万6千ペソ(約6万5000円)。フィリピンでのエビ養殖事業話で資金を集めた投資会社「ワールドオーシャンファーム」による詐欺容疑事件で、同社がフィリピン・ケソン州ルセナ市にあるとしていた「養殖」の現場は、誘い文句とかけ離れていた。
「クロイワオーシャンファーム」だった57ヘクタールの養殖池。面積は、宣伝文句の20分の1だった=フィリピン・ケソン州ルセナ市で
同社の会長の黒岩勇被告(59)=旅券法違反などの罪で起訴=らが「巨大な養殖池がある」と説明したルセナ市は、マニラ首都圏から車で約4時間の海沿いの街。同市役所によると、「クロイワオーシャンファームコーポレーション」の名で06年8月に、市内2カ所の養殖池が営業許可を得ている。池は57ヘクタールと37ヘクタールで、あわせても同社が宣伝していた「東京ドーム450個分」にあたる約2115ヘクタールの20分の1にすぎない。
営業許可申請は、フィリピン人女性(38)を社長として市役所に出された。黒岩会長も他の3人の比人とともに役員として名を連ねる。市役所担当者によれば、07年8月には社長の比人女性が「会社を閉じた」と報告した。この女性は朝日新聞の電話取材に「黒岩会長とは友人を通じて知り合い、事業を手伝って欲しいと頼まれた。07年1月に電話で話してから接触していない。電気代など多額の借金を残しており大変迷惑している」と答えた。
だとすれば、実際にフィリピンでの事業は06年8月からの1年間だけということになる。また、市役所によると報告されたこの間の売り上げは2万6000ペソ。社長の比人女性は担当者に「台風の直撃で被害を受けた」と説明したという。
市中心部から20分ほどの場所にある57ヘクタールの養殖池を訪れた。池の中州に住む管理人(38)によると「確かにクロイワ・ファームだったが、エビではなく魚を養殖していた」。池はもともと地元不動産会社の所有。同社によると「06年5月ごろから約8カ月間、40万ペソ(約100万円)で貸していた」。台風の直撃による被害も「聞いていない」という。
〈エビ養殖投資詐欺事件〉 ワールドオーシャンファームは「フィリピンでのエビ養殖事業に投資すれば1年で2倍になる」と勧誘。約4万人から約600億円を集めた。昨年1月に配当が止まり、警視庁は同年7月、同社を詐欺容疑で家宅捜索。会長の黒岩勇被告は、他人名義の旅券でフィリピンに出国していた疑いなどで同年12月、同庁に逮捕された。 アサヒ・コムトップへ
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