八王子市台町に1981年に設立された都立八王子小児病院は、「多摩西南部地域における小児医療の中心的病院」と位置づけられていたが、都立病院改革の一環で、2010年3月末に府中市に新設される小児総合医療センター(仮称)に移転統合される予定だ。病院を利用する子どもの親たちは存続を求め、市も都との協議を続けている。
移転統合を含む都立病院改革案は01年7月に発表された。八王子小児病院と清瀬小児病院(清瀬市)、梅ヶ丘病院(世田谷区)を移転統合し、子どもの心と体についてより高度で専門的な医療の提供を目指すというものだ。リスクの高い妊婦なども診察対象とする。
だが一方的な案に地元は猛反発。八王子市のほか、同病院を利用する西多摩地区の首長らが都に存続を直訴し、約14万人分の署名簿を提出した。
06年度実績で、同病院は延べ約2万5000人の入院患者、新生児約250人を含む計約7600人の救急患者を受け入れている。存続を求める市と、計画を推進しようとする都との交渉は、平行線のまま現在に至っている。
交渉を担当している市地域医療推進課の米山嘉昭課長は「移転に反対の立場は変わらないが、仮に移転する場合でも現状の医療水準を維持してもらわなければ」と主張。都の担当者は「移転計画を立てた時以上に小児科医不足が深刻になっている」として、現状維持は困難との見方を示す。
市医師会は夜間救急体制の充実などに取り組んでいるが、同会副会長で小児科医の佐藤耕造さんは「これまでの二十数年間、八王子小児病院に全面的に依存してきた」。移転統合された場合の重症、緊急患者の対応に頭を悩ませている。
同センター建設はすでに昨年7月に本格的に始まった。病院を利用する子どもの母親たちは焦燥感にかられている。
市内に住む新堀知栄子さん(40)は、ダウン症の三女(3)を連れて定期的に通院している。「今後のことなど、いろいろと悩みを抱えているのに……。せめて医療面だけでも安心させてほしい」と目に涙を浮かべる。
母親ら約20人は昨年12月、「都立八王子小児病院を守る会」の設立に向けた準備会を結成し、署名運動に取り組むとともに、都や市に現在の交渉状況の説明を求めている。
病院を運営するのは都だが、市には、地域の実情を踏まえ、都に働きかける責務がある。
長女(27)がダウン症だという同市散田町の林啓子さん(55)は「子どもの命を守るために、市長には体を張ってほしい」と訴えている。
(この連載は、黒岩竹志が担当しました)