試験前に受験生のおなかが痛くなるなど、緊張やストレスが引き起こす腹痛の仕組みを詳しく解明することに、岐阜大の小森成一教授(獣医薬理学)の研究室が成功した。小森教授は「仕組みが解明されたことで、試験前の腹痛を止める薬を作れるかもしれない」と話している。研究成果は、生理学で世界最高水準の英専門誌「ジャーナル・オブ・フィジオロジー」に掲載された。
緊張による腹痛や下痢は「過敏性腸症候群」と呼ばれ、運動神経の刺激で腸の筋肉が急激に収縮して起きる。これまでストレスが運動神経に腸の筋肉収縮を命令させることは分かっていたが、細胞レベルで、どのように収縮が起きるかの詳しいメカニズムは分かっていなかった。
腸の筋肉の収縮は、細胞の表面にある「チャネル」と呼ばれる分子構造物にカルシウムなどのイオンが通過すると電気が発生することで起きており、小森教授らはそれぞれ2つずつあるチャネルと、運動神経からの命令を受け取り、チャネルに伝える役割を果たすスイッチ(受容体)に着目。どのチャネルが、どのスイッチと連動して収縮が起きるかを調べた。
研究室の海野年弘准教授と大学院生坂本貴史さんは、スイッチの片方、または両方が機能しなくなったマウスを使って反応を記録した。その結果、スイッチとチャネルの複雑な連動を正確に見分けることに成功し、神経の命令によって最終的に腸の筋肉を収縮させる引き金となるチャネルを特定した。
小森教授は「筋肉収縮の引き金となるチャネルの分子構造や、ほかの臓器での分布を調べれば、腸を狙って効く副作用の少ない薬を設計できる可能性が広がる」と話している。
■北海道大の伊藤茂男教授(獣医薬理学)の話 腸や胃の筋肉のチャネルとスイッチの関係は、少なくとも40年来の謎だった。胃の筋肉にあるスイッチを狙った薬は開発されているが、腸に有効な薬はまだなく、岐阜大の成果は、この分野の研究を進めるのに重要な意義がある。
(中日新聞)