昨秋、職員による国民健康保険の高額療養費詐欺事件が発覚した大阪狭山市。市制20周年の節目に地検の捜索を受け、初の逮捕者まで出した市は、検討委員会で原因究明を進める。6年間で約1億6000万円の公金詐取を見逃した要因として、評判の職員に頼り切り、ずさんなチェック体制が浮き彫りに。早急に再発防止策を講じ、市民の信頼を回復する必要がある。
(清永慶宏)
昨年10月2日。市役所に、元保険年金グループ主査(40)(懲戒免職)が逮捕されるのでは、との問い合わせが報道機関から相次いだ。同僚らは「不正とは縁遠い職員。何かの間違いでは」といぶかった。検討委員長を務める、高橋安紘副市長は「内部で見抜けなかった犯行だっただけに、ショックは相当大きかった」と振り返る。
主査の熱心な仕事ぶりは、来庁する市民らに喜ばれることが多かったという。窓口で親身になった対応を受けた市民から、感謝のメールや投書が寄せられ、市幹部が労をねぎらったことも。〈NO1職員〉と評する声も聞かれた。
1990年に入庁し、97年4月に保険年金課(当時)に配属。担当こそ替わったが、11年以上も同じ部署で働いた。近年は、被保険者が医療機関窓口で自己負担分を支払い後、所得や年齢に応じた限度額の超過分を払い戻す高額療養費の支給を担当。対象者の抽出と、申請書類の受け付け業務に1人で携わり、2006年度は約3200件、計約2億6700万円を扱った。
上司の課長が半年間に2人退職、国保や年金の担当は度重なる制度改正に伴い、知識を持たない職員にとっては「きつい職場」と煙たがられた。そんな中、逮捕された主査は〈頼りになるベテラン〉としての地位を確立していた。
だが、02年ごろから制度を悪用。課長の印鑑を勝手に持ち出すなどし、受給資格のない知人の架空申請書類を作成、口座に高額療養費を振り込む手口で詐取を重ねていった。再チェックも主査自らが行い、不正は闇に隠れた。
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先月19日の市議会職員不祥事事件調査・再発防止特別委。委員から「これほど長期にわたり、なぜ同じ部署だったのか」と批判が相次いだ。理事者側は「思いを持って一生懸命取り組んでいた」との説明に終始。さらには、「代わりを育ててくれという指示もしたが、経験豊富な職員に任せた方が楽という思いもあった」との本音も漏らした。
市は再発防止策として、公金支出窓口を会計責任者に一本化して、出納室や財政グループなど複数部署の目が入るように。さらに、不正の起こりやすい現金払いをやめ、口座振り込みだけにした。高額療養費では「対象者の抽出」と「申請受け付け」を別々の担当者にすることで、二重のチェックが働くよう改めた。
また、事件後の市の調査(昨年12月現在)で、全職員約430人のうち、専門職を除く約270人中、同一職場への配属が▽5年以上〜7年未満20人▽7年以上〜10年未満29人▽10年以上17人——という問題も判明した。
人事の停滞について、高橋副市長は「専門性が必要な部署もあり、それだけで問題というわけではない」とする。一方で、1人に依存度を強めて後継が育ちにくい事態を避けるため、各部長が職場実態に見合った異動を申し出るような制度を検討している。また、市の損害額が確定すれば、主査に対して全額返還を求める訴訟を起こす方針だ。
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昨年12月以降、府内唯一の市役所本庁の土曜開庁を復活させるなど、市民の期待に応えた施策もある。〈日本一さわやかな市役所〉を目指す市の真価が問われている。
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