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2008年01月07日(月) 00時00分

ポスト・コンピューター時代の基幹産業を日本で創る読売新聞

 アメリカ・シリコンバレーのベンチャーキャピタリストとして多くの情報通信企業を育ててきた原さんは、昨秋、東京・ミッドタウンでオフィスを拡充した。コンピューターの次の時代の基幹産業を日本で育てていきたいという。

機械が人間に合わせる新技術

原 丈人  はら・じょうじ
デフタ・パートナーズグループ会長
 1952年大阪生まれ。慶大卒、スタンフォード大経営学大学院、国連フェローを経て同大工学部大学院修了。83年光ファイバーディスプレー会社を起業。85年ベンチャーキャピタル「デフタ・パートナーズ」設立。国連経済社会理事会常任監視団大使兼国連直轄NGO WAFUNIF代表大使。税制調査会特別委員、産業構造審議会委員。著書に「21世紀の国富論」(平凡社)。
——日本のオフィスを拡充強化したのはなぜですか。

 今は、アメリカを手本にして、日本やヨーロッパがついていくという構図です。しかし、アメリカにいる私は、アメリカの限界を感じています。アメリカが破綻したときに、それに代わる価値観を日本から出したい。

 日本がどのような形で世界に貢献できるか、30年以上考え続けていますが、新しいビジネスモデルを日本で作りたいのです。2050-60年ごろのポスト・コンピューター(コンピューターの後)時代に、日本が最初のビジネスモデルを作れれば、少々お金がなくても世界になくてはならない国になる。そのための拠点づくりです。

——入り口に「ポスト・コンピューター時代の新たな産業を育成せよ」とあります。

 コンピューターの時代は終わりました。2006年に米マイクロソフトのビル・ゲイツ(会長)が引退を表明し、アップルが社名から“コンピュータ”をはずした(2007年)のも、コンピューターの限界に人々が気づき始めた表れです。

 産業の歴史を見れば、コア(中核)技術からアイデアが出て、ハードウエア=工業製品を作る時代を経て、テクノロジーサービスがでて、成熟産業になります。グーグル、アマゾンなどのようなサービスが脚光を浴びているのは、その産業がそろそろ終わりにくるという証拠でもあります。

——日本の優位性は何でしょうか。

 次に来るのは、コミュニケーションの時代です。高速道路が整ったところで、自動車がどんどん改良されるようなものですから、ブロードバンドの通信インフラが整っていないといけない。それは、日本に北欧、中国沿海部の上海、香港、シンガポールなどです。日本より進んでいる北欧は人口は少なく、中国沿岸部は点在している。面を持ち、一定規模の人口を兼ね備えているのが、日本です。

 日本は必要十分条件の中で、必要条件は整えつつあります。十分条件で何を変えればいいかというと、税法です。長い目で見て、税収も、産業構造や雇用の安定にとっても、損するものはない新しい仕組みを日本で作ろうと決心し、それに役に立つ(政府系)委員を引き受けています。日本の未来を作り出すようなテクノロジーに対する投資が、個人からもさかんになっていくような税制を、時間をかけて提案していきます。

——コンピューターの次にくる技術は何ですか。

 使っていることを感じさせず(Pervasive)、どこでも(Ubiquitous)、双方向のコミュニケーション(Communications)が可能な技術、すなわち「PUC」です。インターネットと人間を結びつけるのは、パソコンではありません。コンピューターは計算をするために開発されたので「人間が機械に合わせる」ことが必要です。テレビも電話もパソコン化して、だんだん使いづらくなっています。PUCで、「機械が人間に合わせる」時代になります。

——実用化には何が必要ですか。

 CPUもOSも新しいアーキテクチャーに移行していかなくてはなりません。中でもデータベースが一番重要です。

 例えば、名簿を作るときには、名前、住所などの属性があって、初めてデータとして使えます。でも、名前や住所をばらばらに入力したら、コンピューターは処理できません。ところが、人間が解決したいと思っている課題の99%は、ばらばらの半構造化または非構造化データです。今のデータベースではこれに対応できず、それが地球温暖化にも影響してきます。

——どういうことでしょう。

 非構造化データを擬似的に構造化してコンピューターで処理するものを、「人工知能」と呼んでいます。しかし、人間の頭が5ワットぐらいで動いていることをコンピューターにやらせると1億倍は使います。それでも同じことができないくらい効率が悪く、膨大な熱量が発生してしまいます。コンピューター時代を促進しながら、地球温暖化に反対するなんてありえない。デジタル時代は、資源を浪費する文化の時代です。

http://www.yomiuri.co.jp/net/interview/20080107nt0f.htm