旧大蔵省OBの弁護士らのグループが、約70億円の所得隠しを指摘されたパチンコ景品交換業者の追徴課税処分に対する異議申し立て手続きを代行して、3億円もの報酬を受け取っていたことがわかった。
報酬が支払われたのは2006年だが、弁護士らは「節税対策」と称し、07年から数年に分けて支払われたことにする経理操作も依頼していた。業者側は3億円の支払いで、異議申し立てによる減額分を吐き出す形になっており、「不当に高い」として弁護士らに返却を求める考えだ。
巨額の報酬を受け取っていたのは、元大蔵省銀行局審議官の杉井孝弁護士(60)と、元国税局OBの税理士2人。杉井弁護士は1998年に金融機関からの過剰接待で懲戒処分を受けて辞職、税理士らは東京国税局査察部次長や八王子税務署長などを務めていた。
関係者によると、金沢市などでパチンコ景品交換業を営んでいた中村直秀氏(昨年9月に85歳で死去)は06年初め、金沢国税局から収入の多くを除外したとして04年までの7年間で約70億円の所得隠しを指摘され、重加算税を含めて所得税約38億円を追徴課税(更正処分)された。中村氏はこれを不服として、東京国税局間税部長の経験もある杉井弁護士に異議申し立ての手続きを依頼。杉井弁護士は税理士らと数人で「杉井プロジェクト」と名付けたグループを作り、中村氏の住所が移転したのに伴い、06年4月ごろ東京国税局に異議を申し立てた。
グループへの報酬は、申し立て前の3月ごろに着手金5000万円、10月ごろに2億5000万円が支払われた。2億5000万円は銀行口座を通さずに税理士2人が金沢市に出向いて現金で受け取り、「代理業務等報酬の中間金」と記した「預かり証」を渡した。
中村氏の遺族によると、税理士は3億円の算定根拠を、地方税も含めて70億円に上る追徴税額を10億円に減額する見込みがあるとして「差額60億円の5%」と説明。東京国税局が昨年6月に出した決定では、税額が約3億円減らされただけで中村氏側の主張はほぼ退けられたが、その後も精算されていないという。
また、業務の大部分は06年中に終わっていたが、グループは、中村氏に2億5000万円を07年から数年に分けて支払った形にするよう要請。報酬の20%(100万円以下の部分は10%)の源泉所得税分も追加負担するよう求めてもいた。
3億円から杉井弁護士は6500万円、税理士2人は各8000万円前後を受け取ったとみられる。弁護士や税理士の報酬基準は、規制緩和で02〜04年に廃止されたが、中村氏側の新たな代理人弁護士は、「税額の減額幅は期待とかけ離れており、報酬は明らかに過大」と指摘。中村氏は20億円近くの追徴税を滞納しており、遺族は「言われるままに払ったが、納税のためにも払い過ぎた分は返してほしい」と話している。
読売新聞の取材に対し、グループの税理士は「非常に難しい案件で、報酬額は妥当」とし、分割払いの形を装おうとした理由を「中村氏の源泉所得税の負担を軽くするため」と説明した。杉井弁護士は「中村氏との契約に基づき報酬をもらった。杉井プロジェクトなんて知らない」としている。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080106i201.htm?from=main2