買い物客でごった返す師走の新宿。裏ビジネスであるはずの「買い屋」の仕入れ作業は、人目をはばかることもなく白昼堂々と行われていた。(アサヒ・コム編集部)
JR新宿駅東口前の家電量販店。「Wii Fit」が発売されたこの日、開店は通常より早い午前9時半だった。
約70人の行列の中、どれほどが買い屋なのかは分からない。一列になって順々に店に入った。
10分もすると、客たちは商品を受け取り、次々と店を出はじめた。
そのうち多くが、店の近くに駐車されたワゴン車に向かった。ドアを開け放った荷台に、買ったばかりの商品を次々と載せていく。
商品の箱を提げた人たちが、一般の通行人に交じって、駅前交差点を行き交う。仲間で何か言葉を交わしている。中国語のようだ。
中には、自転車の荷台に五つほど商品を積んで運ぶ人、肩から提げたバッグから商品を次々と取り出す人もいる。
家電店に交じって、百貨店の包装紙で包まれた品もあった。ワゴン車に積み込む際、どれも包装紙をはがしていた。
新宿東口に集まる量販店の開店時刻や、入荷台数はばらばら。それを効率よく回るには、その見極めも必要だ。
監視役と見える女性は、買い集めてきた人たちに向かい、手をあげて指示を出す。女性は荷物とレシートを受け取ると、すぐにポイントカードと現金を渡し、再び店に向かわせた。その間も携帯電話でどこかと頻繁に連絡をとっている。
午前10時半、ワゴン車の荷台に100個以上の商品が積まれ、満杯になった。ドアを閉めると、後ろに止まっていた別のワゴン車の後部ドアが開けられた。今度はこの車に商品が運び込まれた。商品を積む車は少なくとも3台確認できた。
午前11時ごろには、商品を満載したワゴン車が現場を後にした。向かったのは、東京都台東区内のビル1階にある倉庫のようなスペースだった。
午後0時40分には、積み込んだ商品が下ろされた。シャッターが半分開いており、中が見える。次々と運び込まれる商品を数人で段ボール箱に詰めている。周りに黒いスーツ姿の男性も見えた。
午後2時、2台のトラックが横付けされた。段ボール箱を積み、約30分後には成田空港に向かった。午後4時ごろには、配送業者が集まる区域に到着した。香港へ空輸されるという。
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関係者によると、買い屋は、10年ほど前に考案されたという。プレミアチケット購入の代行などをする「並び屋」と同様に行列に並んで商品を買うが、人海戦術で大量に買い集めることから、「買い屋」と呼ばれるようになった。
WiiやWii Fitのような人気商品は、正規の流通がない国では、国内より高値が付く。量販店のポイント還元サービスを利用し、安く仕入れることも可能だ。
買い屋は仕入れの際、4、5人のグループで行動する。売り場へは新参者の前後をベテランが挟んで進む。事前に渡した購入資金や商品を持って逃げられないように監視するためだという。
量販店側も、こうした大量買いに気づきながらも見逃しているようだ。ある販売員は「販売ノルマがあり、買って欲しい気持ちもある」と漏らした。 アサヒ・コムトップへ
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