2007年12月26日(水) 21時22分
<最高裁>警官「備忘録」開示を 検察の手元なくても(毎日新聞)
捜査段階で容疑を認める調書が作成されながら法廷で否認した男性被告(59)の刑事裁判を巡り、最高裁第3小法廷(堀籠幸男(ほりごめゆきお)裁判長)は25日付の決定で、警察官の取り調べメモの証拠開示を命じた東京高裁決定を支持し、検察側の特別抗告を棄却した。小法廷は「検察官の手元になくても、容易に入手できる文書は開示対象になり得る」との初判断を示した。
最高裁が、証拠開示の範囲を広げる姿勢を打ち出したことは、公判のみならず、捜査機関の証拠収集・保管の在り方にも大きな影響を及ぼしそうだ。
被告は1月に偽造通貨行使容疑で逮捕され、捜査段階で自白調書が作成されたが、東京地裁の公判では「偽札とは知らなかった」と無罪を主張した。初公判後の争点整理手続きで弁護側は「自白を強要された」と主張し、被告を取り調べた警部補のメモの開示を請求。地裁は請求を棄却したが、東京高裁は逆に開示を命じたため、検察側が「メモは手元になく、開示の対象外」として最高裁に特別抗告していた。
小法廷はまず、公判前・期日間整理手続きでの証拠開示制度について「制度の趣旨から考えると、開示対象は検察官の手持ち証拠に限らない」と指摘。警察官らが捜査過程で作成・入手し、検察官が容易に入手できる書面も含むとの一般基準を示した。その上で、捜査経過の記録を義務付けた警察の規則(犯罪捜査規範)があることから「規則に基づく備忘録は、個人的メモの域を超える公文書であり開示の対象となる」と結論付けた。
検察側は今後、警察から備忘録を入手し、弁護側に開示しなければならない。【高倉友彰】
解説 制度形骸化 防ぐ狙い
警察官の備忘録の開示を命じた最高裁決定は、裁判員制度をにらんで導入された「証拠開示制度」の形骸(けいがい)化を防ぐ狙いがある。
新制度は、弁護側が検察側に必要な証拠の開示を請求できる仕組みで、05年11月に導入された。検察側は従来、証拠の一部しか提出せず、弁護側は「被告に有利な証拠を隠している」と批判してきた。新制度でも検察側は「手元にない証拠は開示できない」と主張し、高裁レベルの判例もこれを追認してきた。
最高裁決定は、この高裁判例を変更し、証拠開示の範囲を広げた。「警察にはあるのに検察の手元にはないから出せない」という主張を認めれば、制度の趣旨に反するからだ。 警察も検察も捜査資料の取り扱いで、証拠開示を常に意識せざるを得なくなる。裁判員制度が捜査の在り方に変化を迫っていると言え、取り調べの録音・録画(可視化)の議論にも一石を投じそうだ。【高倉友彰】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071226-00000118-mai-soci