名古屋大は6日、子どもの乳歯からさまざまな細胞に分化する幹細胞を取り出し細胞治療や再生医療に生かす研究を目的とした「乳歯幹細胞研究バンク」を同大医学系研究科内に設立した。乳歯は採集が容易で、幹細胞としては細胞密度が高く増殖能力が高いことから、白血病治療の骨髄、臍帯(さいたい)血バンクに代わる新たな細胞バンクとして期待される。同大医学系研究科の上田実教授は「将来的には孫の乳歯でおじいさんの骨折が治せる時代が来る」と話している。
上田教授らは2003年、人の永久歯から歯の元となる組織「歯髄」を採取し、その中からさまざまな器官に成長する能力を持つ幹細胞を取り出すことに成功。その後の研究により、乳歯が永久歯よりも幹細胞が増殖しやすいことが分かった。
幹細胞は骨髄や臍帯血にもあるが、乳歯の幹細胞の方が、細胞密度が高く、骨や軟骨以外に神経、血管などに分化する可能性を持つ。さらに上田教授らは最近、イヌから採取した乳歯幹細胞を親イヌに移植したところ、歯槽骨を再生することに成功、乳歯幹細胞から培養した骨が同種の動物で世代間を超えた移植が可能であることを確認した。
乳歯幹細胞研究バンクでは、一般歯科医院や歯学部付属病院から提供を受けた乳歯の歯髄から幹細胞を分離し、超低温で保存。細胞治療や再生医療に役立つ基礎研究を行う。抜けた乳歯は牛乳につけて冷蔵保存し、48時間以内にバンクに持ち込めば細胞が死滅することなく使用できるという。
白血病治療では骨髄や臍帯血の幹細胞の利用が知られているが、これらの採集は提供者の負担も大きく十分な量が集まっていないのが現状。また、万能の再生治療が期待されるES細胞(胚=はい=性幹細胞)技術も倫理上の問題がある。抜けた乳歯なら提供者の負担もない。近い将来には子どもの乳歯幹細胞を利用した親の骨粗しょう症、骨折など骨疾患への利用が可能。将来的には親以外の近親者への治療のほか、ひざやあご関節などの軟骨疾患、脳梗塞(こうそく)などの難治性の神経疾患、ケロイドや傷あとなどの皮膚疾患などの治療への応用可能性がある。
(中日新聞)