「人事、権力、金。すべてを持っている人だった」。名古屋市立大の論文博士学位の審査をめぐる汚職事件で、収賄容疑で逮捕された元同大大学院医学研究科教授の伊藤誠容疑者(68)を知る人は口をそろえる。一方、名市大では、審査委員会の責任者である主査が謝礼を受け取ることが常態化。教授会で「謝礼の授受はやめよう」との声も出たが「あしき慣習は今も続いている」との証言がある。
名市大関係者によると、伊藤容疑者が1996年、医学部第一内科教授に就任、審査委員会の主査を務め、博士学位の当否を決めるようになってから、謝礼の額は1人当たり20万円か30万円に上がり、半ば強制になった。以前は額が10万円程度で、贈る人も贈らない人もいるという緩やかな雰囲気だった。
かつて同じ医局で伊藤容疑者を知る医師の一人は「伊藤容疑者はお金に執着していた。以前の教授よりも博士学位を多く出し、退官の年には十数人にもなった」と語る。この医師は別の教授の審査で学位を取得。伊藤容疑者を差し置いて、ある学会の役員に就く話が出た途端、地方の病院に異動させられた。伊藤容疑者は「医局員は医局に尽くすのが当然。おれは医局を利用する」と公言し、人事権をちらつかせて第一内科を牛耳っていた。
名市大教授の年収は1500万円程度。公費でまかなわれない国内外の学会出席も多い。別のある医師は「お世話になったことへのお礼の意味合いも強かった」と話す。
昨年、教授会で医学部長が「名古屋市の倫理規定もある。謝礼の授受はやめよう」と注意した。しかし、別の大学の医学部教授は「博士学位を取得した人が、担当教授にお金を渡すのは常識中の常識。これだけで教授は年間数百万円が転がり込むからやめられない」と証言。名市大OBの医師は「今も謝礼をもらう教授は多いが、もらっても半分を別のもので返す人も増えている」と話している。
(中日新聞)